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悪魔来  作者: 銀翠
17/18

それぞれの選択

「ん…」

目を開けて、痛む体を起こす。

「ここは…?」

気がつくと、草原の様な場所にいた。周りを見渡すと、すね辺りに届きそうな緑

色の草が、一面に広がっている。

「ここが魔界?」

想像してたものと大分違い、軽く戸惑う。

「どこに行けばいいんだろう…」

見渡しても周りには草しかない、砂漠の様にただ広がり続けてるだけだ。

「まぁ、動かなきゃ始まらないか」

立ち上がり、ただ宛もなく歩く。

歩いていると、突然頭上から声をかけられた。

「おいお前、人間か?」「うん?」

上を見上げると、黒い羽を生やした少年がいた。

「そうだけど…君は?」「俺はここの案内人、レーティだ。人間がなんの用でこ

こに来たんだ?それとも迷って来ちまったのかい?」

少年…レーティは僕の前に降り立ち、疑問を投げ掛けて来る。

「人…悪魔を捜してるんだ、ライアっていう子知らない?」

怪しさはあるけど、聞かないことには始まらないしね…。

「ライア…?まさかライア=クローディアのことか?」「名字の方は知らないけど

さ…有名なの?」

少年の動揺ぶりに、なんとなく嫌な気持ちが沸き立つ。

「有名どころか、クローディアって言ったら魔界じゃかなりの名家だぜ」「そう

なんだ…」

名家か…だからあんなに厳しい親なんだな。

「送ってやってもいいけど…後が怖いねぇ」「なんとか出来ないかな?どうして

も会いたいんだ」

少年は腕を組んで考える、その時間すら僕には惜しく感じた。

「はぁ…いっか、なんか兄ちゃん切羽詰まってる感じだしよ」「ありがとう!」

「んじゃ、さっさと送ってやるからさ」

少年はニパッと笑い、こちらに両手を向けて何かを呟き始める。

「*&%=@#+/…!」

強い光りが迸り、何も見えなくなる。


「いて!」

気がつくと、街の中の様な場所にしりもちをついていた。目の前には、大きな屋

敷が建っている。

「ここがライアちゃんの家…?」

それにしても、人間界と本当にあまり変わらないんだなぁ…。立ち上がって周り

を見渡してそう思う。設備された道路や走る車、行き交う人々は羽やら角やら生

えてはいるが…。

「そんなことはいいんだった…さて、どうするか」

目の前には大きな門があって、威圧感を十二分にはなっている。もちろん鍵もし

まっていて、呼び鈴もついていない。まぁ、呼び鈴なんかあっても僕相手じゃ出

てくれなさそうだが…

「強行突破…かな」

とは大袈裟に言っても、ただ門を登るだけなんだけど…

「門の意味ないよなぁ」

門をよじ登って、向こう側に降りる。行き交う人々…って今思ったら悪魔か、彼

らの視線は少し痛かったけど、登りやすい門だったなぁ。

「不法侵入かぁ…」

なんて言ってる場合じゃない、僕は玄関に向けて走り出した。さすがに名家とい

うのもあって、庭はやたら広いし、門から玄関までも距離がある。

門から走ること20秒ほど、軽く息をつきながら玄関に手をかける。

「呼び鈴みたいなのもないし…いっか」

なんていうか、躊躇しなくなって来た自分が怖い…

「お邪魔しまーす」

かなり小さい声でそう呟いて、僕は中に入る。もちろん靴は脱いで手に持つ。

「どこにいるのかな…?あの二人に見つかったらまずいだろうし」

というか、本当に気付かれてないのだろうか?

「なるようになれ…だ」

なるべく足音を出さない様に歩き、一つ一つ部屋を確認していく。ドアをそーっ

と開けて中を覗き込む様は、誰がどう見ても泥棒だな…うん、忘れよう。

「広すぎるよなぁ…」

広間の至る箇所に部屋があり、一つ一つの部屋を捜すのは時間がかかりそうだな

ぁ…。

一階にはいなさそうだったので、二階にいってみることにした。もちろん一階全

ての部屋を見たわけじゃないんだけどね…広さで諦めたわけでもないよ!

二階に上がると、一階と同じ様にかなりの部屋があるのを見てとれた。ただし二

階は、通路ごとに部屋がいくつかに分かれているから、一階程時間はかからない

はず…だといいなぁ

また部屋を一つずつ確認し、四つ目の部屋を確認した辺りで声が聞こえた。

「出来ないよ…!」

ビクッと身を竦め、声が聞こえた方へと向かってみる。

推測だけど、奥側から三番目の部屋から声が聞こえた気がした。一つの通路の片

方側だけで、30以上は部屋がありそうだから、結構離れている。

声が聞こえた部屋の前に来ると、また声が聞こえた。

「でも…がんばらないと…」

ライアちゃんの声だ…!

僕は部屋のドアをそっと開けて、中を窺う。広く豪華な部屋で、ライアちゃんが

机に向かい何かをしていた。

部屋には他に誰もいなさそうなので、そっと部屋に入り、ライアちゃんに近付く

というか、声かければいいんじゃないか?これじゃ単なるヘンタイだろ…

「ライアちゃん」

近寄りながら、小さな声で呼び掛ける。

「え?…十夜!?」

こちらを振り向いたライアちゃんが大声をあげる。僕はとっさに、「しー」とひ

とさし指を口の前に立てる。

「十夜…どうして…どうして?」

涙を目の端に浮かべながら、立ち上がって僕に飛び付いて来る。

「良かった…無事で良かった!」「ライアちゃん…」

声は大きいままだったが、僕にすがりついて泣く彼女を膝をついて抱き締めた。

「パパが…ひっく…あんなに強くしたから…ひっく…十夜死んじゃったかと…」

「うん…僕は大丈夫だから…」

僕のことを気にしててくれたんだ…。

「あんなお別れは僕は嫌だから…話がしたかった」「私も…嫌だった」

大分落ち着いた彼女を抱き締めたまま、僕は言った。

「帰らない?僕はライアちゃんと離れたくない」「…ごめんね」

その謝罪の言葉が、何を意味するのか僕には分からなかった。

「どうしたの?」「私は…帰らないよ…」

ライアちゃんの腕に力がこもり、僕の体を強く抱き締める。

「…どうして?」

予想外の言葉だった。その言葉がぐるぐると僕の脳内をかけめぐる。

「私は帰れない…」「僕のこと嫌いになった?」

ライアちゃんは強く抱き締めたまま、沈黙してしまう。

「ライアちゃんが辛い思いをするのは嫌なんだ…だから、だからさ!」「だめ…

なの!」

弱々しく、でも強くライアちゃんはそう言った。

「ライアちゃん…」「だめ…なの…だから…だから…!」

ライアちゃんは僕を振り払って、背を向けた。

「…帰って、お願いだから…」

涙まじりの声で、そう呟く。

「ライアちゃ…」「帰って!!」

出しかけた手が止まって、そのまま落ちる。

「帰ってよ…」「…分からないよ…」

頭が混乱する。何が起きてるのか分からない、ライアちゃんが何を言っているの

か分からない。

「私のことを思うなら…今は帰って…」

胸に開いていた穴が、大きくなるのを感じた。

「……分かった…よ…ごめんね…帰る…から」

自分が何を言っているのか分からない、言葉になってるかどうかすら…。

頬を熱いものが通り過ぎて行く、フラフラと立ち上がり、部屋を出て行く。最後

に彼女を見る、彼女は背を向けたまま、小さな背中を震わせていた。


「よう兄ちゃん、お早いお帰りで」「…やぁ」

屋敷を出た瞬間に、またここに戻された。どういった原理なのかは、今は知る気

も起きない。

「だめだった…っていう顔してるな」「…うるせぇ」

八つ当たりしてもしょうがないことは分かってる、でもせずにはいられなかった

「俺も色んな人間見てきたけどよ…少しは相手の気持ちも察してやれよ」「がき

が、知った口たたくんじゃねーよ!」

少年はケラケラと笑いながら、「一応今年で448歳なんだぜ」と言った。

「どうでもいいよ…」「失礼なやつだな、まぁちっとは頭冷やせよ。…そういや

前にもお前みたいなやつがいたな」「へぇ…」

脱力感が体から離れずに、そんな話を聞く気には到底なれない。

「何年前だったかなぁ、兄ちゃんに似た女性だったな」「へぇ…って!?」

まさか…母さん?

「兄ちゃんと同じ風に来て、兄ちゃんと同じ風になって帰って行ったぜ」「で?

それどうなったの?」

母さんにも若い頃があったんだな…って失礼か。

「そっから先は…まぁ秘密だよ」「はぁ!?」

なんなんだこいつは…また脱力感が戻ってくる。

「まぁまぁ、ここの話でもしてやるからそう気を落とすなよ」

周りを見渡しながら少年はそう言うが、「聞きたくもねーよ」と僕はそっけなく

言う。

「ここは主に人間が来る場所でな」

聞いちゃいねーし…。

「魔界と人間界の中間地点みたいなもんだな、で俺が来た人間を魔界の行きたい

場所に送るってわけだ、簡単だろ?」「はいはい…」

もう聞き流してさっさと帰ろう…何回も帰ってって言われたしな。

「んで魔界での用事が終わるとここに戻るんだぜ、便利だろ?」「はいはい…そ

うだね」「…いい加減にせんかいボケェ!」

少年はグーで僕の右頬を殴って来た。もちろん、かなり痛い…っていうか頭クラ

クラする…。

「相手のこと信じれないで何勝手にいじけてんだくそがきが!」「てめぇ…!」

反射的に体を起こし、僕は少年に殴りかかる。何かがキレた気がした。

「んなもん当たるかよ!」

軽くかわされて、僕はカウンターで腹にパンチされぶっ飛ばされる。

「お前は本当に相手を見て来たのか!?自分の感情に流されてんじゃねぇぞ!」

とっさに、最後に見たライアちゃんを思い出す。小さな背中を震わせて、一人寂

しそうに立っている様子を…。

「でも…」「でもも勝手もねぇんだよ!お前が辛いなら、相手にとっても死ぬ程

辛いもんだったんじゃねぇのかよ!?」

そう言われて、はっと気付いた。僕はライアちゃんのために来た、でもそれが的

外れだとしたら…僕が無事で良かったと泣いてくれたライアちゃん、ならあの決

断はライアちゃんにも辛いものだったのか…?

「好きな相手なら、信じてやれよ、何か考えがあるんだろ」

僕は何も考えてなかった…ただ、無理やり帰されてライアちゃんが辛い思いをし

ているものだと決め付けていた。

「好きな相手を信じて、それで結果傷ついても、立派なことだと思うぜ」「いち

いち…セリフがくさいよ」

倒れたまま、僕はそう呟く。

「うっせぇ、これは性質なんだよ…そんだけのつら出来るなら、もう大丈夫だろ

?」「ああ…お節介馬鹿のせいでね」

不安はある、でも…僕はライアちゃんを信じる。分からないことだらけだけど、

彼女も現実から逃げないで闘っているんだろう…そんな風に思う僕を馬鹿だと思

うなら勝手に思えばいいさ、それでも僕は…彼女を信じたい。

「んじゃ、さっさと帰ってお前も今やるべきことをやってこいよ、そいつに負け

ないぐらいによ」「言われなくてもな…!」

僕は清々しい気持ちで、視界が白く染まって行くのをその身に感じた。



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