真実
「十夜ー朝ですよー」ペチペチと頬をはたかれる。「んー…?」ライアちゃんが
、僕を起こしてる様だ。「もう少しー…」うーん…もう少し寝たい。「早く起き
ないと…十夜のエッチな本音読しますよ?」「起きます起きます」僕は勢いよく
起き上がる。聞いてみたいけど、さすがに…ね。時計を見ると、11時だった。結
構遅く起きたなぁ…。「おはようございますー」「おはよう。朝から、起こし方
がすさまじいね」「十夜を朝起こすのは、楽しいですからねー」からかって楽し
い、っていう意味だろうなぁ。「ライアちゃんも、今起きたの?」「そうですよ
ー、少し寝過ぎました」まぁ、昨日は遊び疲れたからしょうがないか…。
僕は立ち上がり、机の前のいすに座る。もちろんライアちゃんは、机の上に座る
。「昨日言ったよね?ライアちゃんの事話してくれるって」少しだけマジな顔を
してみる。「はい…怒らないでくださいね」ライアちゃんも少しマジな顔をして
いた。「まぁ、気楽にいこうか…シリアス顔は疲れるからさ」別に顔がシリアス
になるわけでもないけど…僕は笑顔で言う。「何があっても怒らないから、さ」
顔は笑っていても、これは本音。「うん、朝から張り詰めてると、大変ですから
ね」少しだけ顔はゆるんだけど、話し方はあんまりゆるんではいない。「えと…
どこから話せばいいかな?」ライアちゃんは、右手を頭に当てて考える。「時間
はあるから、ゆっくりと焦らないでいこうよ」まぁ実際のところ、彼女の話を早
く聞きたくてウズウズしてるんだけど…。ライアちゃんは一度だけ深呼吸して、
話し始める。「実はですね…課題なんて、嘘です」「ああ、やっぱりそうなんだ
」なんとなくそれは分かっていた。殺すと言ったり、殺さないと言ったり、結構
矛盾な点が多かったからね。でも分からないのは…「じゃあ、なんで僕のところ
に来たの?」ライア
ちゃんのお兄さんがいるからって線も考えたけど、彼女はそれを知ってなかった
から、僕には来た理由が分からなかった。「…家出してきたんです」「家出?」
「うん…家にいたくなかったから」そりゃ、家にいたくなかったら家出をすれば
いいだけなんだけど…「家出をした理由は?」「私はね…いらない子だから」ラ
イアちゃんはうつむいている。声が少し震えているから、泣きそうなんだろう。
それでも彼女は、言葉を続ける。「兄がいるって話は、しましたよね?」「うん
…」死んでしまった事も、聞いた。「兄はとても優秀でした…。私のパパとママ
はね、どちらも公務員で仕事人間なんですよ」「へぇ…」仕事人間か…うちの母
さんもだけど、きっとライアちゃんも寂しい思いをしたんだろうなぁ…。「パパ
とママは、兄にすごく期待していました。やっぱり自分の子どもには、自分と同
じ道に行ってほしいんですよね…」そういえば、中学生の時の友達に、親が公務
員のやつがいたけど、親がすごく厳しいってよく愚痴ってってけ、ライアちゃん
たちもそうだったのだろう。「兄は優秀でしたけど、私はおちこぼれですから…
パパとママは私には
期待なんてしてませんでした」「そうなんだ…」子どもにとって、それはとても
辛い事だろう。僕は期待されるのは嫌いだけど、さ。「兄が生きていた時は良か
ったんです…私にもパパとママは優しかったから…でも」顔は見えない、でもす
ごく辛そうなのは分かる。「兄が死んでからは、パパとママは私を兄の代わりに
しようとしました」「辛いね…」言葉では言えても、彼女の辛さを僕は理解して
あげる事は出来ないだろう。彼女の辛さは、僕の想像の域を超えているのだろう
から…。「兄が死んでから、パパとママが私に笑いかけてくれた事は、一回もあ
りません…」「…」僕には、何も言えなかった。「辛かったですよ…でも何より
も辛かったのは…」僕はこの後の言葉に、自分の耳を疑った。「パパとママは、
兄が死んでも涙一つ見せませんでした。悲しみを我慢してるわけじゃないんです
…本当に悲しんでいなかったんですよ」そんな…馬鹿な事があっていいのか?「
パパとママは言ってました…兄が、あんなにくだらない悪魔だとは思わなかった
、期待して損した、あんな出来損ない…もういらないって…」ライアちゃんは、
泣いていた。机の上
に涙が落ちる。「私は…優しい兄が好きでした…だから…死んで悲しかったのに
…パパとママは…顔色一つ変えずに…私を代わりに…しようと」「ライアちゃん
…辛かったね」僕は、震えて泣いている彼女を抱き締めた。「十夜…私は、いら
ない子なの?パパとママにとって…私たちは…なんだったの!?」泣きながら、
叫ぶ様にライアちゃんは言う。「もういいよ…もう何も言わないで…ライアちゃ
んも、お兄さんも、いらない子なんかじゃないよ」こんな…こんな事があってい
いのだろうか?悪魔だから?違う…人間にだってきっとそういう奴等はいるだろ
う。なんで彼女が、こんなに悲しまないといけないんだ?ライアちゃんが、何を
したって言うんだよ?誰か答えてくれよ…答えろよ!
ライアちゃんが落ち着いたのは、十数分してからだった。
「ごめんね…気持ちが高ぶっちゃって」落ち着いても、僕は彼女を抱き締めたま
まだった。「んーん、怒りたかったら怒ればいい、悲しかったら泣けばいい。僕
がそばにいるから、さ」正直、僕だってかなりイライラする話だった。「もしか
してさ、ライアちゃんのお兄さんって自殺?」話を聞いてる中で、そこが気にな
った。「うん…手首を切って」ああ…だからライアちゃんは、自傷行為をあんな
にも嫌がるのか。「兄が何回も手首を切ってるのを、私は知ってたの…でも止め
る事が出来なかった…だから、兄が死んだのは私の…」「ライアちゃんのせいな
んかじゃないよ!」僕は彼女の言葉を遮って、続ける。「悪いのは、そこまで追
い込んだ奴等でしょ?ライアちゃんは、悪くない」ああ、彼女は悪くなんかない
。
「十夜…怒った?嘘ついてた事」抱き締めているので、表情は見えない。でも、
きっとライアちゃんは怯えた顔をしているだろうな。「怒ったかな」「…ごめん
なさい」「嘘ついた事に対して、僕が怒ると思ってたライアちゃんに怒ったよ」
僕はライアちゃんを机の上に座らせ、顔を近付ける。「もっと信頼してほしい」
少し前に顔を動かすだけで、唇が触れてしまいそうな位置で僕は続ける。「ライ
アちゃんが好きだから、ね」「うん…私も十夜が好きだから、がんばるね」そこ
まで顔を近付けてキスをしないまま、僕は立ち上がる。「ご飯にしよっか」「十
夜…キスしないんですね」「してほしかった?」いや、僕もしたかったんだけど
さ。たまには、予想外の行動もありかなってね。「してほしいですよ」「ライア
ちゃん…そこまでストレートに言われると、すっごく恥ずかしい」「私だって…
恥ずかしいに決まってるじゃないですか」あーあ、二人してこんなに真っ赤にな
って、僕らは何やってるんだろうね?
僕らは部屋を出て、キッチンにご飯を食べに行く。キス?もちろんしたよ、てい
うかそんな事聞くなよ、恥ずかしいだろ!?えっ?聞いてないって…そりゃ失礼
しました。
なんて一人内部コントをやりながら、おかずをレンジでチンする。「いい加減、
このご飯の説明シーンやめない?」「誰に聞いてるんですかー?」「うーん…分
かりやすく言うと、天の人かな」「全然分からないですよー!」「ごめんごめん
、ちょっとシリアスが長かったから、ふざけてるだけ」「もー!」そんなやり取
りをしながら、ご飯を食べて後片付け。
部屋に戻り、布団の上に横になる。ライアちゃんも、僕の隣に横になる。「そう
いえばさ、僕のところに来たのは、偶然なのかな?」「偶然…なんですかねー?
」偶然のわりには、なんか出来過ぎてる気がする。ライアちゃんのお兄さんが、
彼女を呼んだのかな?「だったら…それは必然か」「必然ですか?」「ならいい
なって、ね。運命の出会いって言うと、なんか良くない?」「運命ですかー…少
し恥ずかしいですね」少し赤くなる彼女。「まぁ運命でも偶然でも、ライアちゃ
んに出会えて良かったよ」最近、恥ずかしいセリフ言いまくりの様な気がする…
。「私も、十夜に出会えて良かったですよ」恥ずかしいやり取りの中、ツッコミ
がいないまま僕らは見つめ合っていた。
「そうでした…今まで、偉そうな事言ってごめんね」いきなりライアちゃんが口
を開く。「私には…十夜をしかる権利なんてないのに」「ライアちゃんが言って
くれたから、僕は変われたんだけどね…何より、僕の事心配して言ってくれたの
が嬉しいよ」「そう言ってもらえると、すごく助かりますよ」ライアちゃんは、
笑顔になる。「そういえばさ、家出してきたって事は、もう家には帰らないの?
」僕としては、ずっと家にいてほしい。「いつか、帰りますよ。決心がついたら
ですけどね…」なんとなく、その決心がつくのは近い未来の様な気がした。「い
つまでも、逃げてられませんから」「ライアちゃんは、強いなぁ」「強くなんて
、ないですよ」「強いよ、僕がライアちゃんの立場だったら。きっとお兄さんみ
たいに、自殺に追い込まれてたと思う」間違いなく、そうなるだろう。ライアち
ゃん比べたら、僕は小さい悩みで逃げ出したのだから…。「ほんとは、帰る気な
んてなかったんですよ…でも、十夜ががんばるなら、私もがんばらないとって思
って…」なんだ、結局僕らは支え合っていたのだ。「ライアちゃんと離れるのは
、辛いなぁ」「私だ
って辛いですよ…?でも悲しい別れがあるから、楽しい出会いがあるんですよ」
「詩人みたいだね」「もう、茶かさないでくださいよ」「…分かってるよ、でも
分かっていたって、どうにも出来ない気持ちはあるさ」ほんとにさ…ほんとに…
辛いから。「十夜…悲しい話はやめにして、遊びませんか?話していても、どう
にも出来ないんですから」「そうだね、何する?」「しりとりでもしますかー?
」「えっ?二人で?」楽しいのか…?「じゃあ、馬鹿から始めましょう。十夜、
か、ですよ」「あー…かば」「馬鹿」「かば」ああ…何がやりたいのか大体分か
った。「馬鹿」「かば」「馬鹿」「かば」「ドジ」「ってなんか変なの混じって
るし!」「あ、十夜の負けですよー」えっ?僕負けてるの?ライアちゃん仕様?
そりゃ勝てないわ…。「負けた方は、一日サンドバッグに…」「いやいやいや!
死ぬって!絶対死ぬって!」「優しくしますよ?」「そんな笑顔で言ってもだめ
!ていうかなんか言葉がエロいって!」あー…日常って感じだよなぁ…こんな日
常いやだぁ…。「もう十夜ってば!わがままはだめですよー」相変わらず逆ギレ
なライアちゃん。「
はぁ…楽しい?」「すっごく」まぁ、僕も楽しいし、これはこれでありか。
まぁそんな風に二人で漫才(?)やっていると、時間はすごいスピードで流れてい
った。
「うわ…もう12時過ぎてんじゃん」前も言ったけど、僕の部屋は濃い色のカーテ
ンかかってるから、外が見えないんだよね。「ええ!?もうそんな時間なんです
か…」「さすがに、僕もびっくりしたよ」恐るべしライアちゃん空気、全てを流
せるな…。「お腹、すいてる?」「私は、すいてないですよー」「じゃあ、散歩
行こうか」「はーい」
僕らは家を出た。もちろん戸締まりはおーけーだ。
僕らはいつもの散歩コースを歩いている。今日は雲が出ているので、星は見えな
い。「そういえばさ」「はい?」ライアちゃんは、隣を歩く僕を見上げる。「ラ
イアちゃん卵から出て来たよね?あれ割ったらどうなってたの?」気になっては
いたんだけど、ついつい聞くのを忘れてたんだよなぁ…。「んーとですねー…あ
れ?なんでしたっけ…」むー、とうなりながら真剣に考え始める彼女。もちろん
右手は頭に当てている。「相変わらずだね…」最近はこの天然っぷりもなかった
気がするなぁ…気が抜けたのかな?「そうでした!」ライアちゃんはポンと手を
打つ。「卵から出て来るわけじゃないので、割れても平気なんですよー」「え?
」確か卵から出て来たと思うんだけど…。「正確に言うとですねー、あの卵が孵
化した時点で、魔界にいる私があそこに空間移動するんですよ」「はい?」ライ
アちゃんが難しい事を…。「要するに、卵を壊しても私が死ぬわけじゃないって
事ですよー」「なるほどねぇ」細かい説明は分からなかったけど、簡単に言うと
そういう事か。「卵が壊されても、また魔界から送ればいいんですし」「ふーん
…」何回でも出来る
って事か。「実は、卵使わないでもこっちに来れるんですけどねー」「あれ?そ
うなんだ…」じゃあなんで、彼女は卵を使ったのだろうか?「そうですよー。卵
を使った理由は、どうせなら優しい人のところに行きたいじゃないですか」「優
しい人?」「卵を拾って孵化させる人は、きっと優しいんですよー」そうかなぁ
?少なくとも僕は…「十夜は優しいよー」相変わらず、鋭い子だな。「優しいっ
ていうか、好奇心旺盛なだけさ」そりゃ誰だって、ダチョウの卵みたいなの落ち
てたら孵化させたくなるよね?「そうですかー?十夜は優しいと思うけど…」「
ライアちゃんにだけ、ね」山下には優しいどころか、口調まで厳しいしね。まぁ
悪友みたいなもんだからなぁ…。「そう言われると、なんだか照れちゃいますね
」少し顔を赤くする彼女。ほんっっっと、かわいいんだよね。「まぁ人間の優し
さなんて、下心重視だと思うけどね」少なくとも僕はそう思う、どうも人間不信
の気持ちは消えないんだよなぁ…。「たとえ下心重視の優しさでも、誰かを喜ば
せられるなら、それでいいんじゃないですか?」はぁ…ライアちゃんが僕にはま
ぶしく見えるよ。「
ほら、よく言うじゃないですか。しない善より、する偽善って」「いや、僕それ
聞いた事ない…」僕が知らないだけなのかな?「まぁでも確かに、そうかもね」
どこからどこまでが善で、どこからどこまでが偽善なのか僕には分からないけど
、行動する方が良いって事かなぁ。
「十夜ー」20分ぐらい歩いた時に、ライアちゃんがいきなり「おんぶ!」とか叫
んだ。「はい?いや別にいいけどさ…なんで?」「理由がなきゃ…だめ?」この
ね…大人っぽくなったライアちゃんがさ、甘えて来るのは反則だと思う。「だめ
じゃない、うん、全然だめじゃないよ」「良かったー」僕はしゃがんで、ライア
ちゃんを背中に乗せる。ライアちゃんの無い胸が僕の背中に当たるが、無いので
感覚が分からない。ただ、鼓動が背中に伝わって来るから、かなり僕もドキドキ
した。「行こっか」ライアちゃんから返事はなかった。「ぐー…」って寝てんの
かよ!?「ぉーぃ」小さく呼んでみるが、やっぱり返事はなかった。「そんなに
眠かったのか…」家まであんまりないとはいえ、久しぶりに一人の散歩を味わい
ながら、僕は家に帰った。
「いや実際さ…話し相手がいないのが、まさか結構きついなんて…」最近はライ
アちゃんがいるのに慣れてるからなぁ…まぁそれでも一人言は減らないんだけど
。
僕はライアちゃんを布団におろし、部屋の電気を消して僕も布団の中に入った。
暗闇の中、僕はいろいろ考えていた。ライアちゃんの事、お兄さんの事、ライア
ちゃんの両親の事。ライアちゃんには悪いけど、彼女の両親の事を考えた時は胸
くそ悪かった。「自分の子どもは、道具みたいなもん…か」都合のいい様に育て
て、だめならすぐに切り捨てる。ライアちゃんのお兄さんの性格が悪かったのは
、そこら辺に理由があるのかもなぁ…まぁそれでもライアちゃんに優しい辺り、
僕に似ているけどね。
ふと、ライアちゃんの名前について考えた。「ライア…英語で嘘って意味だった
かな?」今までの彼女は、名前通り嘘をついて生きて来たのかもしれない。親の
期待にこたえるために…。「なんて、僕は何を勝手につじつま合わせをしてるん
だろ…」彼女の名前と人生が一緒なのは、きっと偶然だろう。「でも…偶然でも
なんでも、ライアちゃんは苦しんで生きて来たんだ…だから僕が、守りたい。嘘
を、本当に出来る様に」彼女が自分に嘘をつかなくてもいい様に…。僕の一人言
は、全て暗闇に飲み込まれていった。そして僕の意識も、自然と夢に飲み込まれ
ていった。
今日も一日が終わる。
いつまで凍結させてんだ・・・という罵倒の気持ちを抱いたら、容赦なく文句言ってあげてくださいorz
とりあえず続きを全部あげるか、という主旨の元、これまでの悪魔来は、携帯で書く→PCに飛ばして推敲(誤字脱字直し)→投稿、という手順を踏んでいましたが、これ以降は携帯で書いたものをそのままPCから投稿します。
要するにおそろしいことになってます。でもまぁ、一応最後まで書いてあるんで、読んでいただければ幸いです。