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悪魔来  作者: 銀翠
11/18

その11〜初々(ういうい)デート?〜

「んー…?モーニング?」ちょっとおしゃれっぽく起きてみた。「今何時かしら?」うわ、上品っぽく喋ってみたら気持ち悪い…。時計を見ると、まだ5時だった。「まだ早いなぁ…もっかい寝よう」隣で寝てるライアちゃんを起こさないように、僕は部屋を出てトイレに行く。「起きたらまずは、トイレだよねぇ…」ぼへーっとしながら、用を足す。「そういえば最近、してないなぁ…」トイレの中で一人呟く。ライアちゃんが家に来てからは、全くしていない。健全な男子としては、少し辛いところである。「さすがに、ライアちゃんに頼むわけにはいかないしなぁ…」「何をですか?」「うわっ!」首だけ後ろに向けて、といっても180度回るわけじゃないけど…とにかく後ろを見ると、そこにライアちゃんがいた。って、えええっ!?「ちょっとライアちゃん!なんでいるの!?」ライアちゃんに叫ぶ。ここはトイレである。鍵は閉めてないから、入ろうと思えば簡単に入れるんだけど…。って、大切なところ出したままじゃん僕!幸い後ろにいるライアちゃんには見えていないので、早々とズボンに隠す。朝だから、ほら…な?大変なんだ。説明しないでも分かってください…。

僕はライアちゃんに向き直る。「何を頼むんですかー?」彼女はのほほんと聞いてくる。ほんの一日ぶりなのに、いつものライアちゃんが懐かしく思えた。「いやいや…それはいいから。なんで入ってきてるのさ!?」びっくりしたよ、どこから聞いてたんだ?「だってー…起きたら十夜がいないんだもんー」ライアちゃんは抱きついて甘えてくる。「分かった、分かったから!トイレの中はだめ」僕はドギマギしながら、ライアちゃんを引き離す。ライアちゃんも最初に比べると、大分変わったよなぁ…そういや来た次の日に、僕の布団の中に入ってきたんだっけか。何も変わってないのかな…?「ぶーぶー」「ブーイングしてもだめ!とりあえず、布団に戻ろう?まだ朝早いし」ライアちゃんをトイレから出して、僕もその後に続く。僕は大分変わったなぁ…強くなれた、彼女のおかげで。

自分の部屋に戻り、布団の中にもぐる。もちろんライアちゃんも一緒だ。「おやすみ」「おやすみなさーい」今日も一日が終わ…はぇーって!まだ始まってもいないってば!!…最近僕ツッコミ過ぎだな…説明的過ぎだし…。

心の中で愚痴をこぼしながら、僕の意識はとんでいった。


「こけこっこー」ああ、ニワトリが鳴いてるなぁ…。ってあれ?ニワトリが鳴くのは5時ぐらいじゃないのか?という事は、さっきから全然時間がたってないんじゃ…?「こけこっこー」目を開けないでいると、おでこをつつかれる。「痛い痛い!何!?ニワトリの来襲か!?」起き上がると、ライアちゃんがいた。ていうか僕のおでこをつついていた。「こけー」「何やってるの、ライアちゃん?」「違いますよ、ニワトリですよー」いやニワトリは喋らないだろ…ツッコミどころが多すぎて、どこからいけばいいのやら。「こけー」もうめんどくさいでの、そう返してみた。「こけーこけー」「こけっこけー」「こーこけこけ?」「こけこけーこけこっこー」「何言ってるんですか?」いきなり素に戻り、そう言うライアちゃん。すっごく嫌な笑顔だ。僕をからかうのに成功した時は、大抵こういう笑顔になる。「ライアちゃん、人によく悪魔だって言われない?」「だって悪魔ですしー」あははー、と笑う彼女。まぁ、楽しそうだしいいか。

時計を見ると、もう10時だ。「ご飯にしよっか」「はーい」僕らは部屋を出て、キッチンへ行く。


「はい、この空白の時間にご飯を食べ終わりました」「何言ってるんですかー?」「いや…そうなったらいいなぁって、こっちの話だから気にしないで」僕はおかずをレンジでチンする。「むー?それにしても、おばさまって本当に家にいませんねー」「まぁしょうがないよ、働かないと生きていけないし。ほぼ毎日おかずを作ってくれるだけでも、感謝しないと」「なんて言いながら、本当は寂しい十夜だった」「そこ、変なナレーションいれるなって…」まぁ、寂しいのは本当だけどさ。

ご飯を食べて、いつも通り後片付け。そして自分の部屋に戻り、机の前のいすに座る。

「暇だねぇ」昨日は忙しかったからなぁ。「十夜も暇人ですねー」ライアちゃんはいつも通り、机の上に座っている。「あっ、そうだ今日何日だろう」「今日は8月14日ですよー。どうしましたー?」「ライアちゃん良く覚えてるね。いやさぁ…二学期から学校復帰しようと思って」留年しなきゃいいなぁ…。「おー!十夜がついに、ひきこもり卒業ですねー」嬉しそうにライアちゃんは笑う。「山下の馬鹿とつるむのも、楽しそうだしね」やれやれ…本当に僕は変わったな。「大変でも、遅れを取り戻してがんばりたいなぁ、ってね」今の僕じゃ、ライアちゃんの隣にいる資格はないからね。こんなんじゃ、養ってあげることも出来ないから…。「その意気ですよー、大丈夫、十夜なら出来ますよ」「ありがと、ライアちゃんがそう言ってくれると、自信が湧くよ」「…私も、十夜みたいになりたいな」「うん?僕みたいって…?」伏せ目がちにライアちゃんは言う。「十夜みたいに、辛い現状を受け入れてがんばれる人になりたい」「ライアちゃん…」この子は何を言っているんだ?僕を変えたのは、ほかでもない彼女自身だ。僕はライアちゃんを抱き寄せて、顔を近づける。「ライアちゃんに何があって、今何から逃げているのか僕は知らない。でも、こんな僕を変えたのは、紛れもなくライアちゃん、君だよ?君のおかげで、僕は強くなれたんだ」心からそう思っている。感謝しても、感謝しきれないほどだ。「私は…私は何もしてないよ。十夜が変われたのは、十夜自身の力ですよ」「ライアちゃん、母さんから逃げてた僕を助けてくれたのは誰?山下が来たとき、僕を止めてくれたのは誰?僕が寂しいとき…いつもそばにいてくれたのは、誰?」「…私は弱いから…だめなの、変わることなんて出来ない!」ライアちゃんは小さい体を震わせている。僕は諭す様に、そんな彼女に優しく言う。「少しずつでいいんじゃないかな?ライアちゃんは一人じゃないよ。僕がいる、僕がいるから…」一呼吸おいて、僕は続ける。「寂しいときはそばにいるよ。不安なときは手をつなごう。悲しいときは僕が慰める。楽しいときは一緒に笑おう、僕はずっとそばにいるよ。少しずつ、強くなればいいんじゃないかな?」「でもぉ…」僕はライアちゃんの両頬つまみ、左右に伸ばす。「いひゃいいひゃい…なにひゅるんでふかー」僕は手を放す。「もー!のびちゃったらどうするんですか!?」「ごめんごめん。でも、ライアちゃんは笑っている顔のほうが、かわいいよ」「むー…」唇を尖らせて、赤くなるライアちゃん。ほんっと、かわいいなぁ…。

「まぁ、ライアちゃんが弱くても強くても、僕はいいよ。ライアちゃんはライアちゃんだし。そばにいてくれるなら、さ。僕わがままだから」さっきから色々と、照れくさいなぁ…。「十夜…私だってわがままですよ。十夜のそばにいないと、不安で死んじゃいます」うわっ!恥ずかしい言葉って、言われるほうもすっごく恥ずかしい!きっと耳まで赤くなっているだろう。「今後とも、よろしくね」「私も、よろしくですよー」まぁ難しい話なんて、しててもきりがないしね。僕は僕に出来ることを、彼女にしてあげればいいや。


「さーて、じゃあ何しよっか?」「そうだな、俺は遊園地に行きたいな」「いやさ…なんでお前が当たり前のように僕の部屋にいるんだよ!どこから入ってきた!?」「もちろん玄関からだ、鍵は閉めないと危ないぞ」「そういう問題じゃねー!」僕はこいつといると、マイペースが乱される。誰かって?山下だよ山下…。「マコッチさんこんにちはー」「お、来亜ちゃんこんにちは。おじゃましてるよ」「ここは僕の部屋だぼけー」ああ、誰かこいつを何とかしてくれ…。

「で、何の用だよ?」「遊園地行こうぜ」「はぁ?寝言は寝てから言えよ」「もう十夜ってばー…私は遊園地行ってみたいなー」「ほら、ライアちゃんもそう言ってるぞ」「うぐ…」ライアちゃんに頼まれるのには、弱い。「ねぇ十夜、行こうよー」「…分かったよ」僕はしぶしぶと承諾する。時計を見ると、11時30分だ。まぁ今からいっても、結構遊べるだろう。「じゃあ私もついていこうかしら」ドアを開けて入ってきたのは、母さんだった。「え?ていうか仕事は?ていうか立ち聞きしてたのかよ!?」ああ…何これ?オールスター夢の共演?なんでいきなりみんな集まってきてるの…?「お、お姉さんきれいですね。良ければ俺とデートを…」「あら、お姉さんだなんて。私これでも○○歳なのよ?」ちょっとちょっと、ピーって何?なんでそこ伏せられてんのさ!「おばさまそうだったんですかー?私はてっきり三十いってないものだと…」「三十いってないって、僕今年で十六だよ!って母さんも喜んでんじゃねー!」「何!?十夜のお母様だったのか!初めまして、俺山下誠って言います」こいついつの間に十夜って呼ぶように…ていうか誰か助けて…ツッコミが足らないよ…。

「あらあら、私は稲子っていうの。十夜がお世話になってるわね」お世話されてねーよ!「ええ、十夜にはよく手を焼かされますよ」「十夜はそんなことないですよー、ね、十夜?」「どうなの、十夜?」…ははは。「お前ら!少し黙れ!!」さすがにキレた。ツッコミ足らないし、話進まないし。「十夜…やっぱり私が邪魔なのね」「泣かないでくださいよ稲子さん…十夜!お前って奴は!」「十夜ー、やっぱり私のこと嫌いなのね…」え?何これ?僕が悪いの?ちょっと誰か…誰か助けて…。「お前にライアを任せたのは失敗だったな」「なんであんたまでいるんだ!?」「十夜、父さんはお前をそんな子に育てた覚えはないぞ!」「父さんまで!?」ああ…もう何がなにやら…ここまで引っ張って、今日の出来事が夢オチだったら…あいつ殺す。絶対に殺してやるからな、○○!って伏字にしかならねー!


「うわぁぁっ!」はっ?…夢?「十夜?どうしたんですかー?」机の上に、ライアちゃんが座っていた。「いや…かなり嫌な夢を」「大丈夫ですか?すごい汗かいてますけど…」「うん、ありがと。大丈夫だから…」どうやら僕は、いすに座ったまま寝ていたらしい。ライアちゃんが言うには、30分ぐらい寝ていたらしいのだけど…。

「びっくりしましたよー。話し終えて、何しよっか?って言った途端に寝ちゃうんですから」彼女は少し怒り気味だ。というか、すねてる…?僕が寝てる間、一人で暇だったのだろう。「起こしてくれればよかったのに」「だって…昨日のことで疲れてるんだと思ったから…」ライアちゃんは、落ち込んでしまう。「ごめんごめん。そうだ、遊園地行かない?」時間はまだ12時、自転車で30分ぐらいの場所にあるから、まだ余裕で遊べる。山下もたまには役に立つじゃないか、夢の中だけどね。「いいですねー」ライアちゃんは一転して笑顔になった。「私、遊園地なんて小さい頃以来ですよー」はしゃいでいるのが、目に見えて分かる。今でも小さいけどね…。「じゃあ行こうか」僕はパジャマから外着に着替える。ライアちゃんの服は昨日のうちに部屋に干してあるので、もう乾いてるはずだ。「デートデート、十夜とデート〜」はしゃぎながらライアちゃんも着替える。ていうか、デート?周りから見たら、中の良い兄妹だろうな…。まぁ、お互い好きあってるなら、これは間違いなくデートだろう。僕は引き出しからお金を取り出す。あんまり無駄遣いをしないので、お年玉やらなんやら結構たまってたりする。自分で稼いだお金じゃないから、少し嫌だけど。まぁしょうがない。「さーて、行こうか」僕だってはしゃいでるさ。初めてのデートだから、ね!

家を出てしっかりと戸締りをする。財布があるかちゃんと確認。「忘れ物なし、行こうかー」「はーい」僕らは元気良く自転車に乗った。ライアちゃんを後ろに乗せて、太陽がじりじりと照らす中、僕は自転車をこぎ出した。


「暑いねぇ…」自転車をこぎながら、僕はそうぼやく。「十夜、何十回同じこと言ってるんですかー」「いや、そんなには言ってないんじゃないかな…」まぁ、家を出てからもう30分になる。その間に何回言ったのかなんて、覚えてないからなぁ。「そんな事より、もう着くよ」今走ってる坂を登れば、見えてくるはずだ。「十夜ー、ラストスパートですよー。がんばって!」「おっし、任せて!」今までの道のりで結構足が疲れてるけど、ライアちゃんに応援されたらがんばるしかない!僕は立ちこぎで、一気に坂を登りきる。「あ、見えましたよー」見えたといっても、坂を登りきってしまえばもう目の前にある。「ぜぇーぜぇー…」さすがに…後ろが軽いとはいえ、二人乗りダッシュはきついなぁ。「十夜、おつかれさまー」「ありがと。ライアちゃんこそ、大丈夫?」僕の自転車の後ろは、カゴなどがついていないので、長時間座っているとお尻が痛くなるのだ。「私は平気ですよー、早く行きましょー」とってもはしゃいでるライアちゃん。元気そうで良かった良かった。

僕は自転車を駐輪場に止めて、ライアちゃんと入場口に向かう。「たくさん遊びますよー」「僕も久しぶりに、はっちゃけるかなー」入場口で子ども用のフリーパス(600円)と大人用のフリーパス(1200円)を買って、僕らは中に走っていった。


「うぅぅ…」「あー、そりゃそうだよねぇ」少し遊園地内をまわると、ライアちゃんは落ち込んでいた。「絶叫系に乗れないなんて…あんまりですよぅ」「身長制限あるの、忘れてたなぁ」ここの絶叫系は130センチからである。ライアちゃんは80センチしかないので、到底無理な話だった。「80センチじゃないですよぅ…83センチありますよぅ」「勝手に人の説明をよまないの…まぁ諦めて、違うの乗ろうよ」ライアちゃんの語尾が、「よー」から「よぅ」になってる辺り切実だった。

ライアちゃんは肩を落としながら呟く。「絶叫系のない遊園地なんて…カスタードの入ってないシュークリームと一緒ですよ!」むしろ後半は叫んでる。「それは単なる…なんだろう?シュー?」実際中身入ってないシュークリームってなんて言うんだろう…ってどうでもいいか。「むしろライアちゃんさ、絶叫系乗ったことあるの?」普通に考えれば、ないだろう。まぁでも魔界はどうだか分からないからなぁ…。「ありますよー。縦に一周するジェットコースターとか、上がって落ちるやつとか…」「へー、魔界って身長制限ないんだね」「いえ、ありますよー」さらっと言うライアちゃん。「えっ?じゃあどうやって…?」「もちろん隠れて乗ってたに決まってるじゃないですかー」なんか目輝かせてとんでもない事言ってないか?「魔界の遊園地って、どれだけ管理ずぼらなんだ…」死人、いや死悪魔が出そうだな…。

「うー…絶叫系…」少したつとすぐに肩を落としてしまうライアちゃん。とりあえず空気を変えないと…。「遊園地といえば、回るコーヒーカップだよ!」そんなことはないとか思いながら、近くにあるコーヒーカップを指差す。「乗ってみましょうかー」おお、なんとかなった。

数分後、僕はベンチでぐったりとしていた。「十夜、大丈夫?」ライアちゃんは隣に座り、僕の背中をさすってくれる。「大丈夫…うっ…」吐き気を我慢して、なんとか胃を落ち着かせる。「ごめんね、回しすぎちゃった…」さっきの光景が頭に戻ってくる。「さすがに…あれは無理」周りの風景がぐにゃりと歪むぐらいに、ライアちゃんはコーヒーカップを回した。みんな知ってると思うけど、真ん中にある皿みたいな物を回すと、自分が乗ってるカップの回転速度が上がるんだ。回しすぎると、僕みたいに…「うっ…」ライアちゃんは心配そうに顔を覗き込み、背中をさすってくれる。「ライアちゃんは…よく平気だね?」「私は、慣れてますからー」何に?なんて聞く余裕も、今の僕にはない…。

結局、回復したのはそれから数分後の事だった。「次は何に乗る?メリーゴーランドとか観覧車とか、お化け屋敷もあるね」「お化け屋敷は嫌ですよー、怖いのは苦手です…」そういえばそうだった。なら尚更…「お化け屋敷にしようか」僕はライアちゃんの手を引いて、お化け屋敷の前に行こうとする。「十夜!お願いだからやめてー」「そんなに怖がらないでも…作り物だから平気だよ」「ほんとに…ほんとに怖いの苦手なんですよー!」目の端に涙を浮かべ、首を横に振るライアちゃん。「うーん…」もう少しいじめたいけど、さすがに怒りそうだからやめとくか。「しょうがないなぁ…メリーゴーランドでも乗ろうか」「それなら、いいですよー」ほっとして、一転元気になる彼女。そんなにお化けが苦手なのか…悪魔なのになぁ。

僕らはメリーゴーランド…名前長いからメリゴでいいや。メリゴに乗った。一つの馬に、二人で乗るという僕的に恥ずかしいことをやった…。ライアちゃんはすっごく喜んでたけどね。だからって…「五回も乗らなくても…」「フリーパスなんだから、乗らないと損ですよー」「そうだけどさー…少し恥ずかしいって」周りから見たら兄妹に見えるだろうけど、僕からしたらライアちゃんは恋人みたいなもんだし…なんか気恥ずかしい。「楽しければいいんですよー」「まぁ、そうだね」少し恥ずかしいけど、彼女との時間は楽しい。

「次は観覧車乗る?」メリゴも飽きたので、僕らは次の乗り物を探した。「観覧車は、夕方に乗るのがいいんですよー」「ドラマチックだねぇ」時間はまだ3時、夏なので陽はまだ落ちない。「といっても、他に何かあるかな?」「乗るだけが、デートじゃないですよ?」ライアちゃんは僕の手を握って、体を寄せてくる。「えっ?」「こうやって歩くだけでも、デートっぽくなりますよ」「え、えーと…」手をつなぐのは初めてじゃないし、体を寄せ合うのも初めてじゃない。むしろ裸すら見たことのある仲だけど…なんだかすごくドキドキした。顔が赤くなるのが分かる。「十夜、照れてます?」それを察したのか、ライアちゃんはそう聞いてくる。彼女の顔はすごくにこやかだった。「なんか、照れくさい…今更なのにね」「私だって、ちょっと照れてますよー」あはは、と笑う彼女。なんだろう、ほんとにドキドキが止まらない。「こうやって二人で歩いてると、バカップルに見えるかな?」「見えないとは思いますけどねー。でも、私たちはラブラブですよー」「ラブラブかー」自然と顔はにやけてしまう。だって、幸せだからさ。

そんな風に寄り添って、遊園地を歩いていた。気づけば、時間は4時をまわっていた。「時間たつの早いなぁ」「ほんとですねー」何かをするわけでもなく、ただ遊園地内を二人で歩いているだけ。それでも、デートという意識を持つだけで、全然何かが違っていた。楽しそうに笑っている家族がいた。楽しそうに笑っている恋人がいた。そして今、楽しく笑っている、僕たちがいる。

「もうそろそろ、観覧車乗ろうか?」「そうですねー、帰りが遅くなっちゃいますし」陽は少しずつ傾いている、でもまだ夕方というほどではない。「行こっか」「はーい」僕らは観覧車に乗り込んだ。

少しずつ高度が上がっていく。「今日は人が少なくて、順番待ちとかなくて良かったね」隣に座っているライアちゃんに話しかける。「そうですねー、お昼からだったから、混んでたら時間危なかったですね」「だねー」少しずつ少しずつ、観覧車は高くなっていく。「ライアちゃんは、高いところ平気なの?」「高いところは好きですよー、見晴らしがいいですからー。十夜?」「僕も好きだよ。ほら、煙となんとやらは高いところが好きってね」「なるほどー」「いや…そこは納得しないでツッコンでよ」そんな話をしている間に、僕らが一番高いところに来た。「うわー…きれいですよー」ライアちゃんは喜びの声をあげている。ドラマとか漫画ならここで、「君のほうがきれいだよ」とか言うんだろうけど、さすがに恥ずかしくて僕には言えない。「もー…十夜ってば何言ってるんですか」ライアちゃんが赤くなっていた。ああ…つい口に出してたみたいだ…まじ恥ずかしい…。「でも、ほんとだから」後にはひけないので、開き直ってみた。「馬鹿…」ライアちゃんは赤くなって、僕を見ている。「ライアちゃん…」「十夜…」ドキドキする胸を抑えて、僕は彼女にキスをする。何回もキスをしてきたけど、こんなにドキドキしたのは今日が初めてだろう。ライアちゃんも多分、僕と同じ気持ちだろう。僕らは寄り添って、下に降りるのを待った。観覧車から出るまで、僕の胸はずっと高鳴りっぱなしだった。

「帰ろっか」「うん」名残惜しいけど、まぁいつでもこれるしね。僕らは自転車に乗って、来た道を帰っていく。夕日が僕らを赤く照らしていた。


「疲れましたー」ライアちゃんは相変わらず、部屋に戻ってくるとお決まりのセリフを言う。「僕も回りすぎで疲れたよ…」思い出すと、頭がくらくらする。「ごめんねー」ライアちゃんは笑いながら謝る。「楽しかったからおーけーだね」「ですねー」「さて、もう寝る?」夕食は、実は帰り道に済ませてあったりするんだ。時間は7時、寝るにはまだかなり早い時間だ。「んー…最近夜の散歩に出てませんねー」「行く?」「行きましょうかー。でもその前に、お風呂に入ってきますね」「うん、じゃあ部屋で待ってるよ」ライアちゃんは部屋を出て、ドアの隙間から顔を出して言う。「覗いちゃだめですよー?」「今更じゃない?まぁ覗いたりはしないよ、覗くぐらいなら一緒に入るし」「それもそうですねー」あははー、笑いながら彼女はお風呂場に行った。「さて、本でも読むか」てきとーに小説を引っ張り出して、僕は布団の上に寝っ転がって本を読み始めた。


ライアちゃんが部屋に来たのは、30分ぐらいたってからだった。「行きましょー」「うん」僕は本を閉じて、元の場所に戻す。家を出て、戸締りをしっかりしてから、僕らはいつもの散歩コースを歩く。「これも、デートって言うのかな?」手をつなぎながら、僕らはのんびりと歩いている。夜空ではきれいな星たちが語り合い、地上では虫たちが話し合っている。「デートって感じじゃないですよねー、楽しいですけどね」「僕もそう思う、違いはなさそうなのにね」「難しく考えることもないと思いますよー、楽しいならいいんですよ」「まぁね、難しいことは学者にでも任せればいいさ」なんで学者なんだろ?まぁなんとなく言っただけなんだけどね。

それから僕らは、少しの間話さないで歩いた。なんでかは、わからない。「十夜…」不意に、ライアちゃんが僕の名前を呼ぶ。「ん?」「明日、私のこと話してもいい?十夜には聞いてほしいの」「もちろんいいよ、今でもかまわないけど…」「んーん、明日ね。怒らないで、ね?」ライアちゃんは僕を見上げている。彼女の強いまなざしが、彼女の強さを表していた。「怒らないよ、どんな事でもね」むしろ嬉しい、ライアちゃんがやっと自分のことを話してくれるのだから。「きっと、怒って火を吹いたりしますよー」「僕は怪獣か…目からビームぐらいは出るかもよ?」「その時はその時ですよー」いや、そんな時はこないだろうけどさ。

まぁそんな風に面白おかしく話しながら、僕らは家に着いた。部屋に戻り、パジャマに着替えて布団にもぐる。もちろんライアちゃんも一緒だ。「それじゃ、おやすみ」「おやすみなさーい」僕は電気を消す。

長い一日が、やっと終わる。

実は大っぴらにデートするのは初めての二人。

すっごく初々しい感じがするんですねぇ

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