出会って、対決、衝突、混乱
朝日と共に、馬車が門前に到着した。
事前に早馬で連絡を受けていたラシャ王子は、出迎えの為に準備をし
朝日が昇って行くさまを見ていたが、遥か彼方から王族の馬車が飛ばしてくるのを見て
出迎える為に城の入り口前に立った。
門が開き、馬車はゆっくりとやって来たが、馬が6頭で支えているのだが
馬が苦しそうだ。
馬車も沈んでいるような見た目だ。
(どれだけ重いんだ?)
ギシギシ言わせて馬車から出て来たのは、巨大な女性。
侍女に支えられて、狭い馬車を揺らし、茫然とする。
「初めまして、エイル王国第1王女、アルシャラン・レナ・エイルです。
一月の滞在、どうぞよろしくお願いします」
声は普通の20代の女性。
巨体な身体がドレスを少しあげ、礼をとる為、少し前かがみになる。
ラシャ王子の横に立っていた宰相マガルタスは、すぐさま礼をし王女の前に出る。
「ようこそ、アルシャラン王女様。こちらがラシャ王子。私は宰相のマガルタスと申します。
よろしくお願いいたします。さぞ、お疲れでしょう。どうぞ、こちらへ。
お部屋にご案内致します」
宰相が城の侍女達を促し、巨体な身体を数人で支えながら、廊下へ大移動だ。
城中から見物人が出て、巨体な王女の様子を眺めている。
「うわ、これが我が国の将来の王妃なのか」
「凄いねえ」
ドスンドスンという音が今にも聞こえそうな姿に、ラシャ王子は、自分の名を名乗ることも忘れ
茫然とその姿を見送ってしまったのだった。
あの肉がなかったら、可愛らしいのだろうな。
あの肉がなかったら、スタイルが良さそうだ。
そんな噂が城中に広まった。
---------------------------------------------------------------
「どうしました?ラシャ王子」
宰相は、不機嫌な王子に書類を渡しながら、王女が国王と王妃と謁見していると伝えると
ますます不機嫌になる。
「俺は挨拶してない」
「それは、後でと陛下からの伝言です。今は仕事に専念されてください」
彼は、流石に本物の巨体な王女を見てかなり怒っている。
どうにかあの体型をこの一月で何とか出来ないかを、こっそり試案し始めていた。
(マキト王弟妃は、確かストレスや薬の副作用があると言っていた。だが、あの体型は
異常だ。どうやってなるものだ?)
仕事の手が止まり、王女の事を考えてしまう。
「王女の事が気になるのですか?」
宰相が含みのある言い方をするので、意地が悪い男だなと感じながらも頷く。
「ああ、あの異常なまでの体型に疑問を持った。痩せることは出来ないのか?」
「それが、先ほど本人から聞きますところ、副作用と呪いだそうです」
「薬の副作用と呪い?」
「数年前にあまりに大勢の婚姻の申し込みが殺到し、高熱を出したそうです。
その時、ある医術士から薬を処方されたところ、副作用であの体型に」
「何、副作用」
「治す方法が、まあ・・・あることはあるようですが、難しいようです」
(難しいのか)
「それは、呪いで?」
「そうです。その医術士に問題がありまして、何でも王女と婚姻をするのは自分だと言って
副作用をさらに増幅させて」
「え?」
「はい。医術士の方は今は国外追放ですが、解く方法だけは言わせたとか」
「解く方法が分かっても、戻れないということは、難しいということか」
「さようで」
王子は、副作用だけでなく呪いをかけられている王女を可哀相に思い始めた。
本来は、美少女と言われたはずだ。それが20歳になっても解けず、
婚姻が出来ないとは
哀れだ。
「王子」
「なんだ」
「王女は、かなりストレスも抱えているようなので、王子があちこち
この国のお薦め場所へ案内されるというのはどうでしょうか?」
「俺が?」
宰相は王子の言葉に、返事の代わりに大きく頷く。
「はあ・・、まあ、俺の相手だからな。粗相のないようにか。俺には無理だと思うがな」
既に昼食は一緒に取る段取りが出来ていた。
-------------------------------------------------------------
食事を取る部屋として、テラスにと演出がされていた。
明るく白いイメージ、清く爽やかなイメージで作られたテラス。
外は、緑と花のオンパレードの素晴らしい庭園の景色。
そして、白いテーブルの前に
巨体女性。
(この場所になんて似合わない存在)
その雰囲気が伝わったのか、王女はムッとした顔つきになる。
「昼食のご招待、有難うございます」
「こちらの料理がお口に合うとよろしいのですが、調理長が腕にヨリを掛けたものです」
「それは楽しみです」
軽い食事だが、黙々と2人は食べ続け、話も淡々としていて会話が続かない。
(迂闊だった。趣味とか何も調べていなかった。何を話題にしていいものか)
ラシャ王子は、招待側の迂闊さに顔をしかめた。それが王女には、自分には
何も思うことがないと受け取ってしまったようだった。
そもそも王子は、王女がどういう想いで来ているのか考えていなかったことも
知らず、今回は敗因だろう。
「ああ・・・その、何か聞きたいこととか、この国で興味とかはありますか?」
気の利いた質問ではないが、なんとか会話が続かないものか
ラシャは目の前の女性が普通の女性とは別者としか思えなかった。
「そうですね。穏やかな気候。平坦な大地、緑も溢れ、作物が豊かに育つなんて
素晴らしい国ですわね。他の国々が欲しがるのも分かりますわ」
「・・・・、はは、まあ、そうだね」
「私の国は、山が多く、平坦な土地が少ないです。でも、温泉地として栄え
観光で外貨を稼いでいます。でも、食物を育てるには適していなく、食べる物には
何かと不便な事が多いです。出来れば、この婚姻が上手くいき、
貿易をお願いしたいと思っております」
彼女は、バーシャラン国に嫁ぐ気だ。
しかも、政略結婚を覚悟して。
「愛のない政略結婚を望んで来ているというわけか」
(まあ、本来はそうなんだけど、漠然と言われるとなんだかな)
何故かすっかりと冷めた気持ちになるのは、何故なのか?
ラシャ王子は、目の前の王女の事をあれこれ考えていたので、
王女の考えには、なんだか気持ちが離れていく。
相手には伝えていないのだから、こちらの気持ちは分かるわけもないのだが
とにかくラシャ王子は、ガッカリした気分になり、食事もそこそこに失礼な事を承知で
部屋を退室してしまった。
その後ろ姿に、王女の方も失望しているとは知らず。
----------------------------------------------------------
執務室で、覇気なく机に向かう王子に、宰相は不気味な物を見るように驚いた。
「どうしました?王女を痩せさせることを考えていたつい先ほどとは、違うようですが」
「ああ、彼女の言葉で、これは政略結婚の為のものなんだなと思ったら、何かこう
ガッカリしたというか。淡々とした会話で、疲れてしまったというか・・」
王族の婚姻て、嫌だなと思ったのだ。
「マガルタスは、恋愛結婚だったな」
「はい、そうです。10年前、幼馴染の妻をなんとか説き伏せ。まずは花を贈りました」
「はいはい、わかった、わかった。何度もなれ初めは聞いているから。
幼馴染の女性と結婚したんだったな」
「はい。子供は5人います。上から」
「いや、もう・・」
片手で制止を求めると、宰相も王子の態度に疑問を持った。
いつもなら、ここでツッコミとボケで面白く、ツッコミの宰相が
ガツンといくところ。
結婚の話を勧めようと画策していただけに、首を傾げる。
「どうしました?」
「俺も恋愛結婚というものをしたかった。見た目は凄いけど、薬の副作用なら
なんとか出来ないかとか、愛せないかとか、いろいろな見方をして
考えていたわけだが。彼女は結婚そのものを諦めた目というか、国の話をした時に
あえて政略結婚をすることを自分に言い聞かせているんだ」
冷めた目をして自分を見ていた王女。
「さようですか」
「自分の国の為にとか思っているようだから、王族って、なんだろうなあとか
考えてしまったわけだ」
「王女らしいですな」
俺を一個人として見てくれないようなら、それもありか。
政略結婚だから、この国でのんびりして頂くしかないかなと
言い終えると、吹っ切ったように彼は仕事を始めた。
「王子。王女といろいろな話をもっとされてはどうですか?
王女のほんの少しの言葉で、全てを見切るような考えでは、真実は分かりませんよ」
その日は、ひとりで夕食を取り、王女の事は宰相に任せてしまった。
ますます2人の距離が開いていく。
「どうにかしませんと」
宰相は報告を終えると、肩を落として執務室を後にした。