初めまして
登場人物
バーシャラン国
第1王子 ラシャ・ナサラ・バーシャラン 29歳。
「そろそろ妻が欲しいなあとか思いませんか?」
バーシャラン国で15年宰相をしている40代の男 マガルタスは、後ろ手に何やら持って
ソワソワしている。
「大国エリクシアルとは、平和条約を結んで何も問題ないはずだろ?」
反論するのは、
バーシャラン国 第1王子であり皇太子 ラシャ・ナサラ・バーシャラン29歳。
昨年、大国であるエリクシアルといろいろあり
今は平穏を満喫しつつ、仕事をこなしているところだ。
「その、エリクシアルとは何もございませんが・・・」
目が泳いでいる。
これは、何か問題を抱えて俺に押し付けるつもりだなとラシャ王子は
ジト目で宰相を見つめる。
「あの・・、実は我が国と・・その」
王子専用執務室の机の上に、1枚の書類と姿絵の紙が置かれた。
「これは?」
「我が国よりも南側にある隣りの国の王女です」
「うん?ああ、昔は美少女とか言われていた牛王女か」
「実は、陛下が王女と殿下の婚姻をお引き受けになり・・・」
「なにいっ。どういうことだ」
今は牛王女と呼ばれている南方面の隣国エイルの国は、温泉地だ。
「陛下は、先月各国が招待された温泉巡りツアーに参加されて、温泉地に無料で
宿泊出来る話に乗りまして・・」
「まさか。それだけの話に乗ったのか?父上が?」
「はい。お酒も入っていただけに。他の国々の方々は、その・・・王女が牛のような
体型でしたので、躊躇していたのですが」
勝手に婚姻を承諾するとは、思い余って立ち上がり、動揺していたのか机の角で
腰を打ち、傷みに苦しみつつ、扉を開けて見回りの兵士とぶつかり
兵士に謝罪を受けながら、ヨタヨタと回廊を歩き
王の執務室にたどり着いた。
秘書官に話を通すと、開けられた扉で額を打ち
扉を開けた侍女に謝罪されながら、部屋へ通された。
ヨロヨロの王子を見て、丁度謁見中のエリクシアルの王弟夫婦に心配された。
「大丈夫ですか?ラシャ王子」
「あれ?」
ソファーへ深く座り込むと、王はここまでの経緯を、後から遅れてきた宰相に話を聞き
大笑い。20代後半の王子は、不貞腐れて侍女からお茶のカップを受け取った。
「ははは。全く、慌てん坊だな」
「勝手に婚姻の話をしたのは、どこの誰ですかね?」
「まあ、わしだが。まあ、待て。お前の友人であるラゼス公の奥方が薦めてくれたのだぞ」
王が隣の長椅子に座るエリクシアル国の王弟ラゼス公とその奥方に視線を移す。
「ユーシィ、どういうことだ」
じと目で彼らを睨みつけると、彼は苦笑した。
「俺達も先月、隣国友好温泉ツアーに参加したんだ。
その時に、マキトがその国の王女と友人になってね。
君に似合いの女性だと思ったんだ」
「ユーシィ。俺にも好みがある。王族で民の上に立つ者が太ってどうする?
俺は、胡坐掻いているような人間は嫌いなんだ」
ラシャの考えは、太る=我儘=なまけもの=自己の健康管理が出来ない=だらしない生活
=民の上に立つのに恥ずかしい。
「全員がそうじゃない。ストレスや薬の作用だってある。
その人柄で、そうかそうでないかは分かる。彼女は、自分の危険回避の為に
姿を変えただけなんだよ。ラシャ王子の国の未来についての考え方が根本が
同じなんだよ。話は普通の女性よりは、男性的な考え方で
面白いんだよ」
隣国王弟妃マキトが力説するので、ラシャはふと我に返って、
マキトを眺めた。
マキトという女性は、女神のような容姿なのだ。
美人なので、牛王女を薦めることが腹立たしい。
俺に牛王女を薦めるなんて、なんて女だ。
昨年、エリクシアルの内乱時に会っているので、知らない仲ではないが
どうして夫の友人にお節介するんだと、不快な気持ちになった。
「ラシャ。マキトは神の加護を持っている。マキトが薦めたのだから
君は幸せになれるよ」
友人である王弟の彼の方は、妻の言葉を絶対だと信じている。
前に俺が言っていた妻に対する理想を知っている友人ユーシィ。
信じていいのだろうかと迷う。
「ラゼス夫人。信じてもいいのか?」
彼女に視線を向けると、彼女はニッコリとほほ笑む。
「もちろん」
あまりにもラゼス夫人が自信ありげに答えるものだから
ラシャ王子は、信じてみることにした。
マキトの言うように相手とは上手くいくかもしれない。
だが、まずは本人に会わなければ始まらない。
その数か月後、相性が合うか合わないかが問題だから、バーシャラン国へ
旅行という名目で、滞在してもらうという話になった。
直ぐに連絡すると、先方も了承した。
宰相が接待を得意とする臣下に命じ、2か月後の季節が良い時期にと
プランが立てられた。
バーシャランという国は、そもそも小さな国。
食べ物が育つには適し、水資源は豊富。
季節は常春に近く住みやすい。
北方面の寒い地域である隣国からは狙われやすい。
王は、大国であるエリクシアル国と友好関係を築き、なんとか他の隣国を抑えてもらっている
状態だ。
そのバーシャラン国よりも南下したさらに小国がエイル王国。
そこは常春で、温泉地。
穏やかな気候なので、療養に他国からいろいろな人種が訪れる。
この小国も近隣の国々に狙われていて、大国と友好関係を築きたいところだが
肝心の王子王女については皇太子1人、王女1人の2人。
側室を設けてないこともあり、他国へ嫁がせたくとも王女は1人しかいない。
王女は勝手な政略結婚が嫌で、ストレスから美少女から牛王女へと変貌したのだと
もっぱらの噂。
巨体になってしまい、近隣から誰も申込みがなく、既に20歳という歳になっていた。
王も躍起になって、近隣諸国から王族とその親族を招き、嫁ぎ先を探していたところ
バーシャランの王が酒に飲まれていた所を、温泉地へいつでも入れる権利等を獲得する為に
ラシャ王子を人身御供にしたと、王城、王都では噂になっていた。
「誰だ。変な噂を流した輩は」
ラシャは、あちこちから耳にする噂に辟易していたが
牛王女は、確実にやってくるのだ。
前中後編か、前後編で終わる予定。