第8話 8人の宣戦布告
期待を胸に、澪達はグラウンドへ。しかし、彼らを待ち受けているものは、『壁』であったー
4月12日17時。入学式から5日後のことである。津凪大学の陸上部の古びたグラウンドでは、後に歴史を変えることになる8人の兵が集っていた。
しかし、森野澪は、ミーティング用の部室のドアを開けた瞬間、何処か心が冷めていく感じがした。熱狂していたはずの心拍は下がっていく。そこに待っていたのは、強豪校の「研ぎ澄まされた空気」ではなかった。
なぜなら、そこには、漫画を読みながらお菓子を食べている人や、爆音でスマホゲームをしている人など、やる気があるとは到底思えない先輩達の姿だった。
「......」
衝撃からか、澪は言葉が出なかった。
「……なんだ、これ...」
ようやく出した言葉は震えていた。
「あの、部員って全部で何人いるんですか?」
どうやら、同じ新入生部員と思われる眼鏡を掛けた人物が上田隼に聞いた。
「一応20人いるが、4年生がほとんど幽霊部員なんだよ。3年生も幽霊部員の方が多いな。」
「部員の出席率はそうなると5割未満。これを駅伝部と呼ぶのは、定義上誤り。」
「しゅん、壁山教授やっぱり居ない。お、今年は8人も来たんだな。」
「たけるさん。なんでこういう時にすら来ないんですか、教授は。もう始めましょう。」
「そうだな。全員、起立。これから、ミーティングを始めます。まず、自分が3年の主将、佐伯武です。じゃあ、君から左へ、自己紹介お願いします。」
澪が促され、
「はい、黎明高校から来ました、森野澪といいます。5000mの自己ベストは14:39です。自分は、ここに遊びに来たんじゃありません。本気で強豪校に勝つために、全日本選考会で貢献する走りをしたいです。宜しくお願いします。」
「漣高校から来ました、谷崎優太です。5000mの自己ベストが14:18です。先程自己紹介した森野澪とは高校時代、ライバルとして切磋琢磨していましたが、今日からは彼と同じく、強豪校に勝つために、チームに貢献したいです。宜しくお願いします。」
隣の優太が挨拶を終え、
「津凪北高校から来ました、柏木修也です。5000mの自己ベストは16:11です。前2人の自己ベストを聞いて慄きました。この雰囲気はうちの先生が言ったのとイメージが違うなぁ。でも、まずは先輩方に勝負を挑めるよう、精一杯頑張ります!宜しくお願いします。」
「洛王高校から来ました、河合和輝です。5000mの自己ベストは14:05です。正直、この現状を見て、失望しました。ここだと全国じゃ通用しない。……正直、この部の設備も、先輩方の締まりのない体も、僕の基準には程遠い。僕に着いていけないならここにいる価値はないと思ってください。とにかく、邪魔だけはしないでください。」
どよめきが2度起きた。最初は、自己ベストを聞いた1年生達から。2度目は、失望した、価値がないと言われた2、3年生から。
「なんだお前、1年坊のくせに。」
「江藤、ろくに練習してないくせに口を挟むな。」
その江藤というらしい3年生が反論するが、佐伯武が場を収める。
「奈良県にある、私立吉野山高校から来た、岳本凱です。5000mの自己ベストは14:41。自分より弱い先輩の言う事は聞きません。自分は上りが得意で、関東の強豪校に直訴したんですけど、聞き入れてもらえませんでした。だから、そいつらをぶっ倒す。」
「...私立蒼穹高校から来ました、泉悠真です。5000mの自己ベストは15:56です。えっと、まずこの部は本当に駅伝部なのでしょうか?掃除の頻度は週一以下。監督不在。先輩方の心拍数は、走る前だというのに安静時と変わらない。勝つための計算式が間違っている。いや、そもそも解答欄が空白なんです。これじゃあ冷め切った雰囲気になってしまうのも必然です。」
ミーティング前に上田隼に質問していた、『ザ・理系』風の眼鏡を掛けた泉が、今の自己紹介でも冷静に分析した。
「県立勢州実業高校から来ました、櫻井光亮です。5000mのトラックの自己ベストは、、ありません。でも、ロードならこの中の強そうな選手にも、付いていける自信があります。高校から始めたのですが、先生からは粘り強さが評価されました。でも、真剣にやりたいのに、この部の現状にはショックです。僕でも勝てそうかなぁ?」
「なんだと、勢州高の櫻井とか言ったな?お前、俺らに勝つ?ギャグは5000mに出走して、現実を知ってから言えよ。なぁ、沼田。」
「ええ、その通りですね、拓さん。wwwwwww。櫻井君、だっけ。君、おぉもしろいねぇぇー。」
「江藤、沼田、いい加減にしろ?」
佐伯が一喝し、ようやく黙った。
「そんなピリピリせんでええやないですか。あ、大阪の浪速大附属高校から来ました、安藤日向って言います!『ひゅうが』って呼んでください!5000mの自己ベストは15:25で、平凡ちゃ平凡ですけど、沿道の応援を味方にするのだけは誰にも負けません!
自分ではノったら120%の力を発揮できる自信があります!江藤先輩、全日本予選通ったらアイス奢ってくださいね!」
「おいおい、調子乗んなよお前」
「あはは、厳しいな〜。ま、よろしくお願いします!」
安藤日向のお陰で少しは和んだが、どこか温度差がある部である事が浮き彫りになってしまっている1日だった。
いやー、すんごい長くなっちゃいましたね。まぁまぁキャラの強い8人の勇者は、どうなっていくのでしょうか?




