起承転結
やあ(´・ω・`)
ようこそ、東洋の神秘にして無限の構成「起承転結」へ。
この言葉を聞いた瞬間、君はきっとこう思ったはずだ。
「そんなの知ってるよ。国語の授業でやったし」「起きて、承って、転んで、結ばれるやつだろ?」
まあ待て。ブラウザバックするのはまだ早い。日本の創作論では、この「起承転結」があまりにも雑に扱われすぎている。たいていの創作本では「4部構成の日本版」とか「4分割した三幕構成」なんて説明されているが、はっきり言おう。それは大間違いだ。
三幕構成と起承転結は、似ているようで根本的に思想が違う。
ざっくり言えばこうだ。三幕構成は、狩猟民族の武器だ。獲物(目的)を見つけ、邪魔者(葛藤)を倒し、肉(解決)を得る。これが基本思想だ。だから「対立・葛藤(Conflict)」がないと成立しない。敵がいなきゃ始まらないんだ。
対して起承転結は、農耕民族の知恵だ。種をまき(起)、育て(承)、季節が変わり(転)、収穫する(結)。そこに「誰かと戦う」必要はない。
つまり、起承転結には対立・葛藤がなくてもいい。敵がいなくてもいい。世界を救わなくてもいい。ただ、そこに「ちょっとした変化」があればいい。
この違いがわかれば、君の武器庫に新たな最強ツールが加わる。特に日常系や短編、そして1話ごとの構成において、起承転結は三幕構成を凌駕する切れ味を発揮する。
今回は、この誤解されがちな「起承転結」を、Web小説という戦場で使える形にアップデートして渡そう。
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1.起承転結とは何か?
もともと起承転結は、漢詩(絶句)の構成法だ。詩を美しく、効果的に読ませるためのリズムであり、物語の構造というよりは「情報の提示手順」だと思った方がいい。
本来の意味合いはこうだ。
・起:歴史や人事を題材とし、比喩や連想から詠み始める。(導入)
・承:穏健に作る。突飛なことや平板すぎることを避ける。(展開)
・転:読み手を驚かす変化を入れる。承と表裏一体でありながら、視点を変える。(転換)
・結:余韻を残してフェードアウトする。(収束)
これが漢詩以外に転用され、文章の構成や物語の構成として使われるようになった。それぞれの役割を、物語の出来事としてではなく、読者の理解として翻訳するとこうなる。
■起:
状況の提示。読者に「これから何の話をするのか」をわからせる。
(例)春の日に、男が川辺を歩いている。
■承:
状況の展開。情報を足し、関係を深める。まだ大きな変化は起きない。
(例)男は桜を見上げ、昔の恋人を思い出す。風が吹く。
■転:
転換。意味が変わる。見え方が変わる。前提が崩れる。ここが一番大事だ。派手なアクションじゃなくていい。「視点」や「意味」が変わればいい。
(例)ふと足元を見ると、そこには恋人が好きだった花が咲いていた。(ただの散歩が、追憶の旅に変わる)
■結:
収束。転で生まれたズレを回収し、読後感(余韻)を作る。
(例)男は花を一輪折り、川に流す。そして歩き出す。
見ての通り、ここには「魔王」も「ライバル」も「悪役」もいない。三幕構成なら「いじめられっ子が(問題)→川辺でいじめっ子に絡まれる(対立)→反撃して追い返す(解決)」のように、葛藤のための悪役が必要だが、起承転結にはいらない。
もし三幕構成を強引に起承転結で表すとしたら、「起→承→転(PP1)→承→転(MP)→承→転(PP2)→結」みたいに、何度も転ばなきゃいけない。忙しい話だ。それに比べて本来の起承転結は、一回転ぶだけでいい。スマートだろ?
これが起承転結の最大のメリットだ。日常系、ほのぼの、ギャグ、あるいはエッセイ。「問題を解決しない物語」を書きたいなら、三幕構成(問題解決型)は捨てろ。起承転結を使え。無理に葛藤を入れると、せっかくのほのぼのスローライフが血生臭くなるぞ。
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2.配分の話
三幕構成(1:2:1)と違って、起承転結の比率に絶対の正解はない。だが、尺(長さ)によって美味しい比率は変わる。
■短い物語(4コマ漫画、掌編):
1:1:1:1(25%ずつ)テンポよくポンポンポンと進む。オチ(転・結)の切れ味が命だ。
■長くなるにつれて(短編~長編):
物語が長くなると、「承(展開)」が肥大化する。当然だ。いきなり転んでも読者はついてこない。じっくりと状況を積み上げる時間が必要になるからだ。
イメージとしてはこうだ。起→承→承→承→承→転→結のように、物語の配分によって承のブロックが増えていく。
目安としてはこんな感じだ。
・短編:起(25):承(40):転(20):結(15)
・中編:起(20):承(55):転(15):結(10)
・長編:起(15):承(70):転(10):結(5)
『シナリオ・センター式物語のつくり方』の新井一樹氏は、「起10%、承80%、転結10%」とさえ言っている。つまり、物語のほとんどは「承」だ。「起」でサッと状況を見せ、「承」でたっぷりと楽しみ、「転」でハッとさせ、「結」で余韻を残す。これが黄金比だ。
ただし、例外もある。まれに「転」がありまくりの物語(ギャグに多い)もある。起承転転転転転転……結みたいな構造だ。まさに『ボボボーボ・ボーボボ』がそれである。あれを使いこなすことができるなら、君は天才として歴史に名を残すだろう(ただし読者は選別される)。
また、長編小説において無限連載をする際に、1話単位で起承転結を適用する場合はもっと極端になることもある。起(5):承(80):転(10):結(5)。これは前話で次に何をするかを説明しているため、「起」は一瞬でいい。「はい、ダンジョン入りましたー」で済むからだ。
とにかく配分については自由だ。「承」でしっかり読ませて、「転」で裏切る。これだけ覚えておけばいい。
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3.起承転結の使い方
起承転結を使いこなすコツは一つだけだ。「転」で何を変えるか、最初に決めろ。
多くの初心者が、「転」をどんでん返し(サプライズ)だと思って、無理やり隕石を落としたり、夢オチにしたりする。やめろ。それは事故だ。
起承転結の「転」は、「意味の変化(Recontextualization)」でいい。出来事の派手さより、情報の質を変えるんだ。
使える「転」のパターンを4つ授けよう。
■A.情報の転:
新事実が出て、それまでの意味が変わる。
・(起)あの子はいつも放課後に残っている。
・(承)勉強熱心だなあ。
・(転)実は黒板で落書きをしていた。
・(結)彼女の面白さを知る。
■B.立場の転:
優位・劣位が入れ替わる。
・(起)俺は無敵の勇者。
・(承)スライムなんて楽勝。
・(転)スライムが分裂して服を溶かし始めた!
・(結)裸で逃げ帰る。
■C.目的の転:
主人公の目的が更新される。
・(起)ケーキを買いに行く。
・(承)売り切れていた。
・(転)仕方ないから材料を買うことにした。
・(結)手作りケーキでヒロインが喜ぶ。
■D.解釈の転:
同じ出来事の見え方が変わる(誤解が解ける)。
・(起)怖い顔の先生がいる。
・(承)いつも怒鳴っている。
・(転)雨の日、捨て猫に傘を差しているのを見た。
・(結)先生のことが少し好きになる。
どうだ? どれも見たことあるだろ? 「対立」も「葛藤」もない。だけど、読者の心の中で「あ、そういうことだったのか」というカタルシスが生まれている。これが起承転結の本質、「情報の提示と転換」だ。
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4.Web小説における起承転結
Web小説は「1話ごとの満足度」と「続きへの引き」の両立が求められる過酷なリングだ。ここで起承転結が火を吹く。
現在の小説家になろうの累計1位(※執筆時点)の『とんでもスキルで異世界放浪メシ』を見てみろ。あれは、1話単位で見事に起承転結が採用されていることが多い。
「世界を旅する」という大目標はあるが、各話は極めて平和だ。
・(起)「今日はここの森を行くぞ」と説明があり、
・(承)魔物を狩って、飯を作って、フェルたちが美味いと唸り、
・(転)ちょっとした変化(新しい情報、びっくりする出来事、仲間ができる、新スキルの取得など)があり、
・(結)「じゃあ次はあっちへ行こう」と進む。
他の異世界スローライフ系や、婚約破棄後のモノづくり系、グルメファンタジーもこのパターンが多い。たいていの場合、その物語の「売り(クリエイティブ)」な部分――建築、錬金術、料理、創作魔法、モフモフ――を「承」と「転」に組み込んで話を進めている。クリエイティブ系の長編連載は、だいたいこの平和な起承転結の繰り返しに落ち着く。なぜなら、読者が求めているのは「血みどろの戦い」ではなく「安心できる楽しみ」だからだ。
そこから、Web小説の1話テンプレートとして、これを使え。
【Web小説版・1話構成テンプレ】
■1.起:今回の「お題」提示
読者に「今日は何の話か」を瞬時にわからせる。
(例)今日はダンジョン攻略回です。
■2.承:小さな前進と展開
情報を足し、関係を進める。日常パートやバトルの序盤。
(例)順調に敵を倒し、奥へ進む。ヒロインとの会話イベント。
■3.転:意味が変わる出来事
ここで「おや?」と思わせる。ただ進むだけじゃなく、変化を入れる。
(例)奥の部屋に行くと、そこには魔物ではなく、傷ついたライバルがいた。
■4.結:次回の「問い」を残す
ここが重要だ。Web小説の「結」は、物語を閉じる場所じゃない。「次の扉を開ける場所」だ。
(例)ライバルが口を開く。「罠だ、逃げろ」と。暗転。(次話へ続く)
「結」をあえて閉じず、少しだけ開けておく。これを「クリフハンガー(引き)」というが、連載においてはこれが生命維持装置になる。
■失敗例:
・「起」が長い:前回のあらすじや状況説明で1000文字使う。読者はスクロールして逃げる。
・「転」がない:「承(ダンジョン探索)」がダラダラ続いて、「今日の探索終わり!」で終わる。それは日記だ。時々ならいいが毎回それだと飽きる。
・「結」で閉じすぎる:完全に問題を解決して、「めでたしめでたし」で終わる。読者は満足して、明日から戻ってこない。
■無限連載(日常系)と起承転結:
最後に、「終わらない物語(日常系)」の話をしよう。『サザエさん』や『ドラえもん』、あるいは『こち亀』のような作品だ。これらに三幕構成(成長と変化)を持ち込むと、物語が終わってしまう。
ドラえもんが未来に帰ったら連載終了だろ?だからのび太君は成長もしないし変化もしない。毎回ジャイアンにいじめられドラえもんに泣きつくのだ。
サザエさんだってそうだ。カツオたちが成長したら、いつかは死んで終わってしまう。
だから起承転結だ。日常系は「転」で変化しても、「結」で元の日常に戻る。これを繰り返す。
・(起)カツオがテストで0点を取る。
・(承)隠そうとしてドタバタする。
・(転)波平に見つかるが、実は波平も子供の頃0点を取っていたとバレる。
・(結)みんなで笑って夕飯を食べる。(日常への回帰)
この円環構造こそが、読者に安心感を与え、一生読み続けさせる魔法だ。変化させたいなら三幕構成。維持したいなら起承転結。この使い分けができれば、君はもうプロだ。
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まとめ
起承転結は、三幕構成の下位互換ではない。「葛藤なし」でも物語を成立させる、高度な情報操作テクニックだ。
・起:状況を見せる。(何の話?)
・承:広げる。(なるほど)
・転:意味を変える。(えっ、そうだったの?)
・結:余韻か、次への引き。(ふう……で、次は?)
どちらが優れているわけでもなく、目的によって使い分けることができる。
さて、君の物語はなんだ?課題を解決させるためのもの(三幕構成)か?それとも、愛すべき日常を描くもの(起承転結)か?
もしも日常系なら、無理に葛藤させるな。起承転結を意識して構成してみろ。それだけで物語はぐっと引き締まる。
今回は以上だ。解散!
【参考】
新井一樹, シナリオ・センター式 物語のつくり方




