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読まれるエンタメ物語の構成テンプレ集 ~テンプレは悪じゃない!読者の期待を外さない物語の組み立て方~  作者: 夕月 悠里
第1章:基本のテンプレ

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乙女の約束(ヴァージンズ・プロミス)の13ステップ

やあ(´・ω・`)


ようこそ、自己実現の物語構成「乙女の約束(ヴァージンズプロミス)」へ。


前回、俺たちは「英雄の旅」という最強の武器を手に入れた。あれは外の世界へ出て、ドラゴンを倒し、宝を持って帰るという、やや男性的・外向的な成功物語の王道だ。


だが、世の中にはドラゴンを倒すことがゴールじゃない物語もたくさんあるだろう?「恋をして綺麗になりたい」「毒親から自立したい」「本当の自分を表現したい」……。こういう物語を英雄の旅の型に無理やりハメようとすると、どうも窮屈になる。


「師匠? 敵? 報酬? なんか違うんだよな……」


そんな違和感を抱えている君に贈るのが、今回紹介する乙女の約束(ヴァージンズプロミス)だ。これは、主人公の「自己実現」と「内面の解放」を中心にした変化のテンプレだ。


先に誤解を潰しておくぞ。ここでの乙女ヴァージンは、性経験の有無の話じゃない。「まだ証明されていない可能性」「内側に眠っている輝き」を象徴するものだ。


だから、性別も年齢も関係ない。おっさんだってヴァージンの自己実現をする。「本当の自分を生きたい」と願うすべてのキャラクターのための地図だ。


今回は、この繊細で強力な構造を、現代のWeb小説で使いこなすための武器として授けよう。


◆ ◇ ◇ ◇


1. ヴァージンズ・プロミスとは何か?


この理論は、キム・ハドソンの著書『The Virgin's Promise』(邦題:新しい主人公の作り方)で提唱されたものだ。彼女は、映画や物語の分析を通じて、英雄の旅だけでは説明しきれないパターンがあることに気づいた。


シンデレラに代表されるような、家族などの共同体によって虐げられている人物が、輝くチャンスを得て変身し、新しい自分と居場所を作る物語。人々に反対されても夢を追ったり、自分に正直に生きようとする人々のための構成だ。


この物語は以下の13ステップで進んでいく。


1.依存の世界

2.服従の代償

3.輝くチャンス

4.衣裳を着る

5.秘密の世界

6.適応不能になる

7.輝きの発見

8.枷を手放す

9.王国の混乱

10.荒野をさまよう

11.光の選択

12.秩序の再構築 (レスキュー)

13.輝く王国


英雄の旅が「村の平和を守るために戦う(共同体のための犠牲)」物語だとすれば、ヴァージンズ・プロミスは「共同体の期待を裏切ってでも、自分らしく生きる(自己のための自立)」物語だ。


タイトルのPromise(約束)も二重の意味を持つ。


ひとつは、共同体が主人公に求める「こうあるべき(いい子でいろ)」という期待(=守らされている約束)。もうひとつは、主人公の内側に眠る可能性そのもの(=自分自身への約束)。


メリットとデメリットも説明しておく。


【メリット】

・自己実現系に最適:変身、才能開花、シンデレラストーリー、職場や家族からの自立、コミュニティ内での立場更新。このあたりが「なんとなく良い話」ではなく、強固な構造として積み上がる。

・内面のドラマが描ける:派手なバトルがなくても、「心の葛藤」と「解放」だけで読者を熱狂させることができる。


【デメリット】

・ただの着せ替えになりやすい:誤読すると、ドレスを着て舞踏会に行くだけの物語になる。主役はあくまでかせを外す内的変化であり、最後に主人公の内面とそれによる居場所を組み替えることだ。外見だけ変えても、約束は果たされない。


◆ ◆ ◇ ◇


2. ヴァージンズ・プロミスの13ステップ


ここから13のステップを解説する。Web小説の文脈でどう機能するかを噛み砕いていく。


なお、この構造も三幕構成として機能する。英雄の旅と同じように、物語によっては無い場面もあり、増えることもある。大事なのは機能と流れだ。



■第1幕:依存と覚醒


【1. 依存の世界(Dependent World)】

主人公が共同体(家族、職場、学校、村、業界)に結びつき、守られる代わりに、期待に縛られている状態。主人公は自分自身の可能性には気づいておらず、この世界に順応して生きている。


ここで描くべきは居場所と息苦しさの両方だ。どんな場所で育っている主人公なのか、どんなことを共同体で期待されているのかをしっかりと描写するのが大事だ。シンデレラのように搾取されている主人公が定番だ。


例:家庭内で都合のよい子として育てられている少女/ブラック企業で社畜として優秀な主人公。/王子に尽くすことを期待されている令嬢。/姉妹で力関係がはっきりしている主人公



【2. 服従の代償(Price of Conformity)】

その共同体に適応するために、主人公が抑え込んでいるものが見える段階。

才能、欲望、怒り、好奇心、恋心、正直さなど共同体に属することで主人公が我慢しなければいけないことは何か。基本的に服従の代償は「本当の自分の不在」だ。共同体に搾取され主人公の可能性がつぶされている様子を描け。


例:絵を描くのが好きなのに、親に禁止されて隠している。/プライベートを犠牲にする主人公/王子の浮気に気づいているが、淑女として笑顔を貼り付けている。/妹の使用人として身分を奪われる姉



【3. 輝くチャンス(Opportunity to Shine)】

主人公の本質が表に出る。

周囲の評価でも、偶然の成功でも、誰かとの出会いでもいい。重要なのは「自分にも別の生き方がある」と味見できること。主人公の才能が誰かに見抜かれたり、願いが叶ったり、誰かのために行動する、チャンスをつかむ、といろんなパターンがある。

大事なのは、依存先では見られなかった新しい主人公の姿を見せることだ。


例:匿名で投稿したイラストがバズる。/助けたおばあさんの孫に食事に誘われる/隣国の公爵に「君は笑った方が可愛い」と言われる。/幼馴染の婚約者に選ばれる



【4. 衣裳を着る(Dress the Part)】

ここでは外見の衣装に限らない。

役割、肩書、ルール、スキル、振る舞いでもいい。「新しい自分」を試着する段階だ。試着なので、まだ不安定でOK。完全な変身ではなくお試しだ。

大事なのは、依存時代の自分とは別の自分としてふるまうことだ。もしかしたら夢はかなうのかもと読者に期待させることが大事だ。


例:ネット上の絵師として活動を始める。/プライベートの趣味を楽しむ。/夜会のために、今まで着なかった派手なドレスを選ぶ。/婚約者とデートをする。



■第2幕:秘密と混乱


【5. 秘密の世界(Secret World)】

主人公が依存の世界の外側に、別の価値観の場を持って楽しむ場面だ。

創作活動、部活、裏のコミュニティ、夜の街、ネット、秘密の関係。なんでもいい。本当の自分が出せる世界に主人公を連れて行ってめいっぱい楽しませろ。ここは読者にとってのドキドキシーンだ。甘々なやり取りやデートを楽しませろ。

なおここではまだ依存先も存在しており行き来する。同時に二重生活の歪みも蓄積される。


例:昼は社畜、夜は人気イラストレーター。褒められる/昼は社畜、夜はデート/昼は王子の婚約者、夜は公爵との秘密の文通。/昼は使用人、夜はデート



【6. 適応不能になる(No Longer Fits Her World)】

試着した衣裳が、もう元の世界ではフィットしない。

嘘がつけなくなる、我慢が続かない、共同体のルールが耐えられなくなる。主人公が依存世界に戻れなくなっていくのがこの段階だ。本当の自分が依存の世界に出始める。


例:親に反抗する。/上司の理不尽な命令に、つい反論してしまう。/王子のワガママに「それは違います」と言ってしまう。/妹の癇癪に耐え切れなくなる。



【7. 輝きの発見(Caught Shining)】

主人公は「私が本当に望むもの/私が本当にできること」を考え始めるタイミングだ。

二つの世界の維持は困難になり、いろんな歪みがでて主人公は追い詰められていく。

ここでの輝きは、成功ではなく自己認識として描くと強い。また、秘密がバレかける(あるいはバレる)緊張感もここに含まれる。


例:「私は絵を描いて生きていきたいんだ」と自覚する。/「本当にこのままでいいのか」と考えるようになる/公爵に「君の本当の顔が好きだ」と言われ、恋心を認める。/「もう妹の世話なんてしたくない」と感じる。



【8. 枷を手放す(Give Up What Gets Her Stuck)】

主人公が共同体の期待(あるいは内面化した規範)を、決定的に手放す。

新しい世界に行くために、依存先の荷物をすべて捨てるときだ。

ここで物語は「従う話(受動)」から「自分で選ぶ話(能動)」へ切り替わる。新しい自分の一歩を踏み出す。


例:親に「絵を辞めない」と宣言する。/会社を辞めてやると辞表をたたきつける/王子に婚約破棄を突きつける。/妹から離れる。



【9. 王国の混乱(Kingdom in Chaos)】

主人公が枷を外した結果、共同体(王国)の秩序が揺れる。

ここは主人公だけの問題ではなく、世界の側が反応する段階だ。主人公に依存したのは共同体も同じでその代償が一気に噴出する。主人公が依存先の維持に重要な能力を持っていた場合は悲惨なことになる(ここが「ざまぁ」のカタルシスになる)。

周囲が怒る、噂が立つ、関係が壊れる、制度が敵に回る。引き戻す力もここで生じることがある。


例:親が激怒し、勘当される。/会社の業務が崩壊し悲惨になる。/令嬢が実務を担当していたので、国中が大騒ぎになる。/妹が癇癪を起こして暴走する。



■第3幕:自立と再構築


【10. 荒野をさまよう(Wandering in the Wilderness)】

主人公に孤独がやってくる。

主人公がそのまま新しい世界で生きていくと思いきや、すんなりとはいかない。元の依存先が手を回して、新しい居場所から主人公を追い出して居場所を取り上げたりする。一時的に主人公は厳しい状態に陥る。

味方を失う、居場所がなくなる、称賛が消える、孤独になる。ここで大事なのは、荒野が罰ではなく自立の必須コストとして描かれることだ。


例:家を追い出され、ネットの評判も落ち、一人ぼっちになる。/再就職が上手くいかず貯金が減っていく/公爵とも連絡が取れず、社交界で孤立する。/妹が幼馴染を奪おうとする。



【11. 光の選択(Choosing Her Light)】

価値観の最終選択。

そして選択を迫られる。依存の世界に戻るか、本当の自分に賭けるか。

恋愛なら承認される恋ではなく自分を偽らない愛を選ぶ、といった形になる。選択の前に一度、主人公は元の依存先に無理やり連れ戻されることも多い。


例:親に謝って戻るのではなく、自分の力で個展を開く決意をする。/元の会社に戻って来いといわれるが拒否する/王子の言動を受け入れず、公爵の元へ走る。/妹に服従するのではなく、抗議する。



【12. 秩序の再構築 (レスキュー)(Re-ordering / Rescue)】

秩序(関係性)が再構築される。

主人公は自分の心に正直に、なりたい自分になることを決意する。

恋愛ものでは王子様が助けに来ることが多いが、それだけでは解決ではない。主人公が新しい秩序を組み立てる、または共同体が新しい秩序を受け入れることが大事だ。助けは入ってもいいが、主体は主人公側に残しておくのがコツだ。そうでないと結局、同じ依存状態になりかねない。主人公が主体的に選ぶことが大事。


例:個展が成功し、親がその才能を認める(あるいは親離れが完了する)。/新しい会社を作って働く/公爵と共に新しい領地経営を始め、元婚約者たちを見返す。/幼馴染と結婚し妹から離れる。



【13. 輝く王国(Kingdom Is Brighter)】

新しい日常の世界。

最初の依存先とは違った生活で、新しい生き方がもたらされる。

主人公が輝きを生き、周囲の世界も更新されている。ここで読者が得るのは「勝利」より「納得感」だ。敵を倒して終わりではなく、新しい生活のためにどんな関係性を築いてきたかが大事だ。


例:プロの画家として生き生きと暮らす。/パートナーと一緒にプライベートも仕事も充実した生活を送る。/公爵夫人として、以前よりずっと自由に、幸せに笑っている。/自分らしい生き方をして幸せに暮らしました。


◆ ◆ ◆ ◇


3. Web小説での使い方


特に女性向けの小説でこのパターンが強い。スターツ出版の大人気作である『鬼の花嫁』に代表されるようなシンデレラ型恋愛/自己実現型の現代恋愛ものでもよく使われている。


その人気の理由は、読者が内面の変化や周囲の関係性を求めるからだ。ヴァージンズ・プロミスは、内面変化が定期的に起きるよう設計されているので、それに伴い関係性も更新され、中盤の失速を起こしにくい。


運用のコツは2つある。


【コツA:ステップを話数で等分しない】

重要なのは分量ではなく機能だ。

特に以下の2点は、更新をまたいで読者の心拍を上げやすいので、話末の引きに向く。


・3(輝くチャンス):「おっ、何か始まったぞ」というワクワク感。

・8(枷を手放す):「やった! 言ってやった!」というカタルシス。



【コツB:「王国」をWeb小説向けに具体化する】

王国はファンタジーの国じゃなくていい。

学級、部活、職場、家族、ギルド、配信界隈、村社会、SNSコミュニティ。

「依存の世界」が具体的であるほど、枷を手放した後の「王国の混乱(9)」が刺さる。

例:毒親家庭、クラスのカースト。ブラックギルドの掟。田舎の村八分。


【相性が良いジャンル】

・恋愛:特に自分を偽っている状態からの解放。

・成長・お仕事:ブラック環境からの自立、転職、才能開花。

・ざまぁ・悪役令嬢:「婚約破棄→自分の価値を取り戻す」流れは、まさにヴァージンズ・プロミスそのものだ。

・変身・アイドル:地味な子がメイクや活動を通じて輝く。


二面性を書きたいジャンルで最強だ。



【ありがちな失敗】

・4(衣裳)だけが派手:2(服従の代償)と8(枷を手放す)が薄いと、ただの着せ替えごっこになる。内面の葛藤を描け。ヒーローに従うだけだと依存先が変わっただけに見える。最初の依存先とどう違うの?

・9(王国の混乱)を避ける:周囲が最初から都合よく応援してくれると、変化のコストが消えて物語が軽くなる。「反対する人」が必要だ。

・12(レスキュー)で他人に頼りすぎる:最後にヒーローが全部解決してしまうと、主人公の約束にならない。「私の手で掴んだ」感覚を残せ。ヒーローはあくまできっかけだ。


◆ ◆ ◆ ◆


まとめ


ヴァージンズ・プロミスは、「共同体に適応して抑え込んでいた輝きを取り戻し、枷を外し、荒野を越えて、新しい秩序(輝く王国)を作る」物語構造だ。


英雄の旅の外的勝利では説明しにくい、自己実現・自立・内的変容を、節目として設計できるのが最大の価値だ。


もしも虐げられて自分を出せないヒロインを書く場合はこの構成が役に立つだろう。


次に書く(または書き直す)物語について、まずこの問いに答えてくれ。


1.依存の世界 :主人公は誰(何)に守られ、誰(何)に縛られている?

2.服従の代償 :抑え込んでいる「輝き(本当の自分)」は何?

3.輝くチャンス:本質が表に出るきっかけは?

4.衣裳を着る:どんな「新しい自分」を試着する?

5.秘密の世界 :どこで本当の自分を楽しむ?

6.適応不能になる :いつ「もう戻れない」と感じる?

7.輝きの発見 :何を「本当に望んでいる」と自覚する?

8.枷を手放す:手放すべきルール/思い込みは何?

9.王国の混乱 :主人公の変化に周囲はどう反応する?

10.荒野をさまよう:自立のための「孤独」と「コスト」は?

11.光の選択 :戻るか進むか、どう決断する?

12.秩序の再構築 (レスキュー) :どんな新しい関係を築く?

13.輝く王国:最後に、どんな「新しい日常」を作る?


君の主人公が、新しいドレスを着て、本当の自分を見つける世界で輝くのを待っているぞ。さあ、魔法をかけに行こう。


今回は以上だ。解散!

【参考】

キム・ハドソン, 新しい主人公の作り方 ─アーキタイプとシンボルで生み出す脚本術

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