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出来損ないは這い上がる!  作者: 涼神ヘレン


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6 新事実はさておいて

「ルーネ? どうしたんだ、固まっちまって……」


 ただ一人動揺した様子の彼女を心配して、マイトリーは声をかける。その声で我に返ったのかハッとしたルーネは、未だ何がおかしいのかわかっていない様子の男達をさておきノルに問う。


「えぇっと、ノル君……でしたわよね? あの受付の方の言い間違えでなければ、ファミリーネームは"シンギュラー"ですのね?」

「そうだよ? ちゃんとそう書いた!」

「おいホントにどうしたんだよ苗字なんか気にして、坊主がなんかいいとこの生まれとでも言いたいのか?」

「あら、察しがよろしいのね」

「え、嘘だろ……?」


 割って入ったくせにすぐ黙り込んだマイトリーを気にも留めないで、ルーネは言った。


「シンギュラー家は、ここリホルト王国の隣国であるバルネンブルク王国で長く名を残してきた名家ですのよ」


 ――と。幸いか依頼を見定めたり、仲間内で騒いだり、仕事に奔走していた大半の人間の耳には届かなかったものの、ルーネの言葉を聞くことのできた同業者達はそれに皆驚いていた。が、いち早く事実を飲み込みきった誰かがふと疑問を立てる。


「でも、本当にノルくんが名家の子息なら一人で谷にいたのっておかしくないですか、それも街どころか国の外ですよ? ありえないでしょうが、ただの外出なら家族か護衛のような方くらいは……」

「アストロの仰る通りそもそも外出で谷底なんか行きませんわ。同行者なしの身一つに魔導書だけであんな場所にいたとなれば、認めたくなくても大方訳アリでしょうね」

『人間は自身の子を大層慈しんで育てるものではないのか? 吾輩が眠る前に空から軽く地表を見た時は捨て子なんぞ見当たらなかったが……』

「それはそこの一帯が大変治安のいい場所だっただけかもしれませんわ。それに世紀を跨げば人の世代も考えも……とにかく色々変わりますから、時代の移り変わりでこういうのも増えてしまうようになったなどともとれるかと。

あとは近代のシンギュラー家は思想が強いと風の噂で聞いたことがありますの、もしかしたら残酷ながら攻撃魔法が使えなくて追放を……という流れやも」

「仮にも歴史と名声のあるであろう名家のやることじゃなくないか? そういうとこほど多少なり世間体とか気にするだろ、それでも捨て子を作ったとなると根腐れってやつでもしたのかね」


 ――さもありなん、と言いたげなように首を振る魔術師とドラゴンの眉間に、少しばかりでも皺が寄っていたようにゲインには見えた気がした。

 名のある家も大変だな、なんて小さく彼は呟いた。


◇ ◇ ◇


「ノル様、カードの用意が整いましたのでこちらに来ていただけますか?」


 一方そんな蚊帳の外側で、受付嬢がノルに声をかける。彼女の指示通りカウンターに行き、手伝ってもらいながらカードに針で血を垂らしたノルに、受付嬢は加えて「カードに載せる必要があるので、従魔のお名前を教えていただけますか?」と言った。


「二人……じゃなくて二体? ……のことはさっきのに書いたけど、それだけじゃだめなの?」

「あのような数が少ない種族なら確かに名無しでもいいかもしれませんが、ルールがあるので……。」

「そうだったの?」

「はい。従魔になるのは大体たくさん数がいる種族なので、識別のために名前をつけるのが決まりになってるんです。合わせて誰がどの個体を使役しているかをわかりやすくするために、カードに従魔の名前を載せておくのもルールですね」


 受付嬢の言葉にそっかぁと納得したように頷いたノルはそれならばと考えてみるも、一向に良さそうなものは思い浮かばない。


――どんなものを考えれば喜んでくれるのかな。そもそも名前なんて勝手につけていいのかな。


 なんて悩みながら肩と首をすぼめるノルを見かねたのか、同じく話に混ざっていなかったエピックバレーサーペントが彼を見やる。カウンターより少し離れたところからのそのそと歩いてきたそれに、ちょうどいいやとノルは目を合わせた。


「お名前がいるんだって、何がいい? エリザベスとかみたいなキレイな感じするやつ?」

『それは竜が冠するにしては女々しすぎて鱗が逆立ちそうだ……我のは可愛らしすぎるものは避けてくれ、それ以外は何も要望はない。』

「わかった、じゃあエンシェントカイザーさんのはどうしたらいいかなぁ」

『あの老輩のはそれこそエリザベスでもいいから適当に決めてやれ』


 急にぶっきらぼうになったその返事に、本当にエリザベスにしたなんてわかった時にはあの爪でバラバラにされちゃいそう、なんてけらけら返してノルは再び考える。

 かわいすぎるのはどっちも多分ダメ、かといってドラゴンという種族に合いそうな美しいものは決め方がわからない、何でもいいならばいっそ簡単に――


「……種族から取って、きみが"バーサ"、あの子が"エイザ"とか……?」


◇ ◇ ◇


 手続きが終わり、表にノルの名前や血の雫の載ったカードを受け取る。これで彼も名義的には冒険者の一員だ。

 ただしノルでは本登録の基準年齢に足りないらしく、登録料がかからない代わりにランクが最下位で固定され、報酬の二割を手数料なんかで徴収される"仮登録"状態になるとのことを告げられた。二十歳になったら本登録への引き継ぎに来てくださいね、と言われたのに彼は「覚えてるかなぁ……」と眉を下げていた。


「それで、これで登録は完了しましたがこの後のご予定はございますか?」

「カバンかおようふく見にいこっかなって思ってるけど……」

「それでしたらお金はどうされるんですか? もしモンスターの素材なんかをお持ちでしたら買い取りますが……」

「あそっか、買うならいるもんね。でもそんなの持ってないしなぁ」


 しょぼくれているノルの様子を見て少し考えたようなバーサは、少しばかり考えるような様子を見せた後に受付嬢を見やった。


『……ふむ、ならばこういうものは取り扱うのか?』


 ――どういう意味ですか、と受付嬢が問うより早くバーサが自身の鱗を数枚引き抜き『できるならこれで主の服が買えるだけのカネ?を寄越せ』と差し出した。

 受付嬢は、カウンターの向こうでふらりと腰を抜かした。

補足になりますが根腐れどうこう言ってたのはゲインです、マイトリーはエピックバレーサーペント(基バーサ)と「汚え話だな……」なんて思いながら口噤んでました

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