5 一騒ぎと身分証作り
光がふわりと晴れる。するとその直後目を開いたノルが「もう戻るならせっかくだから一緒に上に行こう」と誘い、それを受けて冒険者達は竜の背中を借りて谷を出た。そのまま解決報告のため彼らを派遣した国であるリホルト王国の国境門の近くに降り立った時、誰かがこう口にした。
「……コレ……どうやって国に入るんだ……?」
そう、冒険者やその従魔はもちろん、最悪ノルも”門をくぐる”のは問題ない。だがそのノルの従魔がデカいから問題なのだ。人間を何人も乗せて運んだその身体は、人間の建造物に合う体格の何回りも大きい。いくら国境門がワーグのような大きい魔物でも通れるように設計されていたとしても、外れ値たるドラゴンはそのままではどうやっても入れない。万が一突進でもしてみれば崩落待ったなしだ。
頭を抱える大人達と遠くの国境門を交互に見て、ノルは門を指しながら従魔に声をかけた。
「ねぇ、アレくぐれるくらいにちっちゃくなれない? こわしたり飛び越えたらダメなんだって」
『それくらいなら無属性魔法の応用で可能だな。どのくらいまで縮めばよいだろうか』
『迷うならいっそ坊の魔術書程になるのでもよかろう、闊歩したって邪魔にはなるまい』
『莫迦を言う、それでもし幼体と間違えられたらどうせ腹を立てるくせに』
「えーっと……とりあえず、あのオオカミさんくらいでいいと思う……ダメだったらまたどうにかしよ」
そうマイトリーのワーグを指し直して伝えるノルの一言で、冒険者が相携える従魔達を参照することに決まったようだった。同年代に比べれば聡い子供に感心しつつ、しゅるしゅる小さくなるドラゴンを見ていた彼らも気を改め入国準備を進めることにした。
◇ ◇ ◇
他の従魔と変わらないくらいまで縮んだドラゴンを引き連れ、国境門に足を進める。衛兵によるボディチェックを済ませ、門で大人達はギルドカードを提示する。それに「なにしてるの?」と聞いたノルには、マイトリーがギルドに登録した証であるギルドカードを出せば入国税が免除になることを簡単に教えていた。ノルはカードが無いために請求はあったが、マイトリーが彼と話している間にゲインが立て替えてくれていた。
そうして人々の視線は集めつつも、無事に入国できた一行はその足でさっさと目的地に駆け込んだ。
「……え、あの依頼もう解決したんですか?! 皆さんが出発したのって、確か今朝早くでしたよね?!」
「そうですね、信じてもらえないかもしれませんけど今から説明します」
驚くギルドの受付嬢の態度もまぁ当然だろうな、と思いつつアストロが顛末を説明する。今朝向かった時にドラゴン二体が喧嘩していたことから、白い瞳の子供との出会い、そして解決までを簡潔に話していた。彼の後ろでジロジロ見られている二体を「あれが原因となっていたドラゴンです」と指したのもあって信じてもらえたのか、話はしっかりそのまま通ることになったようだ。
それから報酬の支払い手続きの前に、ノルの従魔登録もするということになった。またしても現れた聞き慣れない単語の解説をしてくれたアストロ曰く、従魔のいる者は有事に備えたりのためにギルドで身分管理をするらしく、そのために名前なんかと何を従えているかを登録することを指すとのことだった。
話している間に受付嬢が必要な書類を持ってきてくれ、カウンターにペンと置いたのを書くことになった。高くて届かない机で作業するために抱えてもらって、ノルは書類を書いていく。
「……えーっと……名前と、従魔と……ブキ? ねぇこれも書かなきゃだめ?」
「それな、アストロはそこまで言ってなかったけど、従魔連れてる奴はギルドに登録するのが必須……要は絶対やらなきゃダメになってんだよ。契約主と従魔のことまとめて管理すんのに、入会と違う手続きする必要もないからな」
「魔物の襲撃の対応をする人員確保や、あまり無いですがテイマーの講義なんかもギルドの登録者から選ばれますからね。あとは粗相のペナルティなんかもギルドの管轄ですから」
「……つまり……大変なときにたたかったり、もし連れてる子達がなにかダメなことしたとき怒るのをここがやるから、そういうとき探しやすいようにトーロクをやらなきゃいけない……?」
「そんな感じでいいぞ、まぁアイツらが何かやらかすとは思えねーけど……」
そういうことを話しながら、たどたどしいペン使いで書類の書ける部分を埋めていく。名前、従魔の種族、あとは一応魔導書と書いた武器と、本人にもわからないため回復とだけしか書けていない属性……できる限りを埋めた紙を手渡し、内容を確認した受付嬢は目を見開きつつ、すぐに気を持ち直して次の手続きに移る。
書類の記入後は従魔契約の際に身体に入る"契約印"と言われるものを見て、その後情報を登録して作られたカードに血を垂らせば完遂になるのだそうだ。契約印の説明をされた際に襟を引っ張ってみたノルは、いつの間にか身体についていた稲妻と竜を混ぜたような印に慌てていたが、それが契約印だと教えられるとすぐに落ち着いていた。
「それでは、契約印の確認をさせていただきます。」
「うん、服はどこくらいまでめくればいい?」
「お腹の辺りを見せていただくか、もしくは襟をずらしていただければ見れますよ。お好きな方を選んでください」
「はーいっ」
そう返事をしてノルはろくに乾かす暇もなかった服の裾をぺらりと捲り上げる。鎖骨に頭を置いて長い身体を伸ばしている一対の竜をまじまじと見た受付嬢は、ノルに持ち上げた裾を下ろさせると向き直った。
「確認致しました。では、ノル・ブロクスピア・シンギュラー様、今からご記入いただいた情報を登録してカードをお作りします。」
「はい! おねえさん、ありがとうごさいます!」
されたお礼に微笑みを返して下がる受付嬢を見送ったノルに、様子を見守っていたゲイン達が近付き「お疲れ」「しんどくないですか?」と声をかける。構われるのが嬉しいのか、緊張の解けたようなふにゃふにゃの笑顔でノルはそれに応えている。
――ただ、その子供の名前を聞いていたルーネのみは、動けないまま静かに目を張っていた。
「……聞き間違いじゃなければ……その子のファミリーネーム、シンギュラーって……」




