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出来損ないは這い上がる!  作者: 涼神ヘレン


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4 妥協点、その先の誓約

「……いや、百歩譲って囲うにしたって人間の食うものとかわかるんすか? あと寝る場所とかどうすんだってのもあるし、何より家族に会いたがるかも……」

『この頃合いなら肉は食えるだろう、それなら食うものに困ることはあるまい。寝床はここらの草でも使うて作るか今のようにすればいい。何よりその家族とやらは幼子を辺境に捨て置くような者共だろう、既に失望している可能性も考えられないのか?』

「クッソコイツゥーーーーー!!!!」

「落ち着いてくださいまし」

「声デケェな」


 ゲインは頭を抱えていた。エピックバレーサーペントに気に入られた名前もわからない赤髪の少年をどうにか地表の然るべき機関に引き渡すために交渉すること数分、投げた意見と質問の全てを叩っ斬られていたからである。一番良案そうな地上行きは許可が降りない、しかし地下暮らしの問題のあれこれを指摘したとてすぐに解決策――人間の知識が無いなりの、ではあるが――を返されてしまう。もはや手も足も出なかった。

 それを憐れんだのか説得させられる言葉が思い浮かんだのか、どうにもできず地団駄を踏んでいるゲインを制すように、様子を見ていたあと一人が「すみません、僕からもよろしいでしょうか?」と割り込んだ。


「大丈夫かアストロ、アイツ手強いぞ」

「それは……まぁ、とにかく聞いててください。どうにかしますから」


 控えめに手を挙げていた、アストロというらしい彼は装備から治癒師であるとは見受けられたが、如何せんドラゴン側には先程の剣士と何が違うのかわからない。しかし聞かないことには何も始まらない。とりあえず治癒師の言葉に耳を傾けてみることにした。


「さて、まずはお話を聞いていただき――」

『前口上はいい、聞くだけで飽きそうだ。早く本題に入れ』

「ご要望とあらば。

……簡単に言えば、人間はたとえ食糧や睡眠の問題が解決したとて”日光を浴びなければ異常をきたす”のです。」

『……何?』


 ――異常が出る、ということはつまり『好ましい状態が維持できなくなる』ことに等しい。所有物に傷なんかが付くのはもちろん好ましいことではないが、よりにもよってお気に入りに成ったものでそれが起こるショックはおそらく計り知れない。それだけはなんとしてでも避けたかった。

 そんな内心が顔に出たかのように目を見開くエピックバレーサーペントに向けて、アストロはこう続けた。


 過去に人体学を興味から嗜んだことがあるという彼曰く、人間は日光を浴びている方が健康的な心身を維持できる傾向があるというデータがあるとのことらしかった。時間の流れる感覚の狂いを戻すだとか、気分の高揚や免疫の強化を促すだとか……そういう効果の実状の研究こそあまり進んでいないものの、ずっと前から残されてきた記録があるならおそらく人間が生きるのに重要なのだろうとわかるだろう、とも付け加えて。


「ここトゥイライト洞窟は発光植物の光はあれど日の光は届きません。いくら貴方の種族が平気でも、異種の彼に通用するかどうか……」

『……しかし、死ぬわけでもなかろう。生命維持に影響がないならここでだって暮らせる』

「頑なですね、そんなに大事で……おっと?」


 一人と一体の話がだんだん勢いづいていたその時、強くなった声で目覚めたのか掌で寝ていた少年が真剣な空気を割って起き上がった。寝覚めが悪かったのか、眉間に皺を寄せ「ん゛ん……」と唸っている。まだ寝ぼけた様子のその子は、ぱちぱち瞬きをしてこう言った。


「……おじゃま、しちゃった?」


◇ ◇ ◇


 アストロから自身が倒れてしまってからの顛末を聞いたノルは、いつの間にか新たな問題の生えたこの事態に開いた口が塞がらなかった。まさか自分が谷底暮らしになりかけていたとは流石に思えなかっただろうし、これも当然のことにはなるのであろうが……


 そして、いざ続けて「トゥイライト洞窟(ここ)にいたいか」と聞かれたノルは迷うことなく首を横に振った。そのまま彼は「できないのはわかってるけど……」と前置きした上でこう言った。


「できるならおうちに帰りたいよ、会いたい人がいるもん」


 ――言葉にも、話し方にも、迷いは一つもなかった。

 その確かな思いを聞いてしまえば、もう誰も異を唱えたりなんてできなかった。しかし、未だ踏ん切りがつけられないのかエピックバレーサーペントは顔を顰める。それほどまでに其奴が手放し難いのか、と誰より低い声をかけられた竜は、頷くように首を下げた上で胸の内を吐露する。


 ――打算がなくて、あたたかい、清いものに思えたのだと。初めて触れたのに、ぎこちない手さえそっと包んでくれるように感じたのだと。名前もわからないそれが愛おしいような気がして、だから離して失いたくない。大きな口から静かに語られた、芽生えたばかりの淡い思いを誰もが口を挟まず聞いていた。

 手放すのが怖いのだろうが、しかし無理をさせて恩のある者に害は与えたくない。谷底で囲うことのリスクは散々聞かされたがそれでも手元にほしい。ジレンマというやつが心の中で暴れていた。

 そんな焦ったいのが見ていられなかったのか、ずっと様子を見ていたルーネがアストロの方に近付いて口を開いた。


「そんなに一緒にいたいのなら、いっそ従魔契約でもお結びになってその子と地上に出ればいいですわ」


 ”バレーサーペント”の名は廃れるでしょうけど、とは付け加えられているものの、その提案は『他の生命体の眷属になる』とか『己より下位の存在を従者にする』なんて発想を基本持たないドラゴンにとってはまさに目から鱗であった。これが他の人間なら「戯けたことをほざくな」と一蹴していただろうが、慈しみ深い恩人が契約の対象ならエピックバレーサーペントにとって悪い気はしなかった。

 エンシェントカイザーは長い洞窟住まいで人の文化に触れたことがないからなのか従魔契約というものがピンときていなかったが、疑問を口にしてすぐ『そこの人間が配下にしているワーグやヒッポグリフのように、我ら魔物が人間の眷属になることという認識でよかろう』と若造の方から説明を受けていた。また、ノルは自分が何かの主人になるということが説明が耳に入っても想像できなかったのか、ずっと首を傾げていた。



 結局、エピックバレーサーペントは契約に対し悪い気がしなかったのか従魔になることを受け入れたようだった。……しかし同時に、予想外なことにソレを見ていた()()()()も共にいることを選ぼうとしていた。


『あの若輩の言うこともわからんでもなかったからな』


 なんて言ってはいたが、こちらは口振り的に気まぐれもあるのだろう。


 困惑する人間一行を気にもかけずにルーネに契約方法の指南を求めた彼らは、彼女に言われるがままに薄黄色の掌からノルを降りさせた。体力不足かふらつく小さな足で、それでもこれから紡がれるものを聞くためにと向き直った一対の瞳が、跪くみたいに大きな体をかがめた二体を捉えて。


 そうして、淡く光の当たって光輪を映す鬢をさらりと揺らした純白を見つめ、竜達は思い思いの誓いをすぐ未来の主人に立てる。


『汝に救われたこの身、必ずや報恩のために使ってみせよう』


 と、インディゴの双眼が。


『我が命捧げてでも、恩人たる其方を守ろう』


 と、ミュールの双眼が。


 ブラックと、ダークパープルのマズルから捧げられたこの言葉を拒む理由も意気も、ノルにはない。誠意の色を乗せた声が放たれる。


「ぼくも、二人にふさわしい主になってみせるから。だから絶対、うらぎらないでね」


 『契約完了』を示すような三つの光が、互いを包み合うように弾けた。

文中に出てきた”ヒッポグリフ”はグリフォンと雌馬の間に生まれるとされ、鷲の頭・前足・翼と馬の胴体・後ろ足を持っている生物です

wiki様とかで伝説の生物とか魔法動物とか言われてるけどここでは魔物と同列の扱いになります

従魔にしているのはマイトリー率いるチーム『ダイナマイト』(マッチョ集団チーム)のモブメンバーです

また、その前に出てきていた”ワーグ”は簡単に言えば知能の高い狼の魔物です、オークなんかと連携して狩りしたりするらしい

作品によってはハイエナなどのように扱われたりしてるっぽいですがここでは狼として扱っています、さっくり言えば神聖じゃないフェンリルみたいなもんと認識していただければよろしいかと


ヒッポグリフはファンタジーいっぱい読んでる方なら名前見たことあるかもね

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