【癒やしの聖女】第9話 罠
5人のうち3人は、石礫を額や腕に受けて唸っている。残る二人は、剣使いだ。一方が、派手な装飾の鎧を着けている。
「やれいー!」
ケバい鎧の男の命令で、もう一人の方がロングソードを抜いて斬り掛かって来た。このケバい寄りの男がリーダーらしいな。
斬り掛かって来た手下の剣使いは、大した腕ではない。右手だけで楽に剣を弾ける。
ケバい鎧の奴は、手下に相手をさせている間にわたしの視界から見えなくなった。そして、手下の口元がニタリと笑うのがわかった。
背後に下卑た殺気が近づく……その方向に向かって、左の掌を開く。
「う……っぷ」
左手には、乾いた砂を握っていたのだ。顔面に浴びせられた砂が、目潰しの用をなしてリーダーの視界を奪う。
「テメェ……」
両目を開けられないまま、盲滅法にロングソードを振り回すリーダー。逃げる手下が、草を踏み締める音に反応して、そちらを追いかけようとする。
「お……お頭、オレです!」
手下の情けない声に「ああ……」と返事の声を返したときに、リーダーの動きが一瞬止まった。その隙を突いて、背後から下半身に海賊の剣を見舞う。
「……ぐぉ」
刃は鋭くないが、剣の重さでの打撃は強力だ。脚は確実に折れただろう。突っ伏して呻き声を漏らすリーダーを見捨てて、わたしに斬り掛かっていた手下は悲鳴を上げて逃げていく。
リーダーの人徳、推して知るべし……だな。
最初に石礫で負傷させた3人も、手足をへし折って動けなくしておく。これで、やっと魔蝙蝠を誘き出す準備が整った。
「おい……こんなところに、あの馬鹿デケぇ魔蝙蝠が襲ってきたらどうするつもりだ! オレらを魔蝙蝠の餌にするつもりか?」
リーダーの声は、怯えで少し震えている。敢えて返事はしないが、その通りだ。
わたし一人で囮役をやっていても、最初の襲撃に失敗した魔蝙蝠は警戒して姿を現さない可能性がある。魔物にも知恵はあるからだ。
しかし、ここに恐怖に怯える者が4人もいれば……人の負の感情を好む魔物は、引き寄せられてくる。
「……おい。取引しようじゃねえか。助けてくれ! 町の連中から搾り取った金……金貨10枚分くらいはある、それを全部あんたにやる。どうだ、悪い取引じゃねえだろ」
生憎、わたしは自分を殺そうとした相手とは取引しない。
第一。魔蝙蝠を誘き出す餌にするために、わたしが相手をしたのだ。ノアールに相手をさせたら、あの面倒くさがり屋は、空間ごと切り刻んで皆殺しにしてしまうからな。
そうこうしているうちに、東の空に太陽が昇り始めた。




