【癒やしの聖女】第7話 野宿
ならず者を挑発した脚で、すぐに魔蝙蝠が巣くう森に向かった。
少し窪地になった辺りが、背の高い木々がない。割りと平坦で地面に疎らに生える草もせいぜい膝か踝くらい。視界も良くて、魔蝙蝠を誘い出すにはちょうど良い場所だった。
この程度の草なら炎の弾で焼かれても、炎や煙にまかれるほどではないな。
魔法の『匂い』をさせないために,ノアールは離れている。ここで囮役として留まるのは、わたし一人だ。
「やることがないから、鑪でも作っておこうか」
平坦な場所だから,段差を利用する鑪は作れない。真っ直ぐに大きめの穴を掘って、その左右から小さい穴を斜めに掘って底で繋げる。
太陽は南中から西に傾き始めた頃。ちょうど昼時だ。
真ん中の大きめの穴に拾ってきた枝を詰めて、火種を放り込むとすぐに火の勢いを上がる。腸詰め肉を焼きながら、黒パンとチーズを囓る。
「今日か明日で……本当に、ケリが付いて欲しいなぁ」
ならず者相手に「今日か明日」と言い切ってきたのは、こちらの都合である。
保存食がないのだ。教会で、一個の黒パンを切って数人で分け合っているのに「魔蝙蝠を退治するから、食料をよこせ」とは言い出せなかった。
おそらく……修道女自身は、ほとんど食べていないだろう。
「明日の夕食分くらい……までは保つかな」
腸詰め肉は、これが最後。干し肉は明日の昼食にして、今日と明日の夕食は黒パンとチーズだけでしのぐか……と考えていたら。
「ラゲルナ様」
不意に、ノアールが空間を繋いで現れた。
「これを」
黒のローブから差し出した左手には、バタバタとあばれる鱒が握られていた。
ちなみにノアールには、緑の服ではなく黒のローブを着させてある。この前みたいに、わたしを盾にされたらたまらない。
何で、普通の人間のわたしが、最強の『拾い集めるモノ』の盾を務めなければならないんだ?……絶対おかしい!
「獲って来てくれたのかい?」
「はい。ラゲルナ様にも、しっかり食べて頂きたいですから」
人外の存在なのに、しっかり気配りはできる。
「食べ物は、心配しないで下さいね。妾がラゲルナ様をちゃんと養いますから」
ニッコリと微笑んだノアールは、空間を繋いでその場から消える。
そう言えば、わたしはノアールから嫁認定されているのだった。嫁を養う義務を果たしてくれるのはいいのだが……嫁を魔物の盾にしたり、囮にするのは如何なものか。
いや、ノアール相手に追求しても意味はないな。
結構大きい鱒だから、燻製にすれば2回分の食事になりそうだ。後は……燻製にする手間だけだな。




