【癒やしの聖女】第5話 ヤバい話
間もなく、大きめの籠を抱えて修道女が礼拝堂に駆け込んで来た。
付きそう男たちに「怪我人の衣服を脱がせる」ように指示を出して、修道女が酒瓶の栓を開ける。強い酒の匂いが鼻をつく。
「……うぉお」
右脚の太股から血が流れていたが、酒で血が洗い流されると、それほどの深手ではなさそうだった。男の口からは傷に酒がしみた痛みで呻き声が漏れたが、傷を確認した修道女の顔には安堵が浮かんでいる。
それから、丸みを帯びた草の葉を乳鉢ですりつぶしたものを傷口に塗布して包帯を巻いた。
「オレら3人が羊の放牧させているところへ、冒険者どもが来て『魔蝙蝠から羊を守ってやるから駄賃を払え』と強要したんだ。当然、断った」
それで冒険者どもは、腕力に訴えてきたのか。
「なまじロディが腕っ節が強かったせいで、冒険者どもは剣を抜きやがった」
二人の顔にも、殴られた痣があるから最初に絡まれたのは彼らなのだろう。それをロディが止めに入り……やり込められた腹いせに剣を振り回してきたと言うわけか。
男たちから経緯を聞いていると、いつの間にかノアールが、修道女が持って来た籠の脇に座り込んでいた。乳鉢に残った葉を、じっと見ている。
「チドメグサ……傷口が収縮するので血が止まりやすくなります。傷の化膿も抑えてくれますね」
何百年もの間、森を彷徨いながら身に付けた『生活の知恵』を、一人でぶつぶつと呟いていた。怪我人の心配とかは一切していない……ノアールだからな。
魔蝙蝠討伐のために派遣されてきたと言う冒険者は7人。あの巨大な魔蝙蝠に怖じ気づいたのか、それとも最初から討伐する気がなくて、住民にタカるつもりだったのかはわからない
とにかく今は、家畜や畑の見張りだの、買い出しに町の外に出る住民を護衛するだのの名目で金銭を要求してくるのだと言う。
「連中は、町長の家に居座ってやがるんだ」
まさか、町長もグルなのか?……と思った。
「いや……町長の家族は、冒険者たちに追い出されてしまったんだ。今は親戚のいるヤクトの町に逃げているらしい」
「それは、誰か確かめているのかい?」
「あ……いや……」
妙に、煮え切らない返事が返ってくる。周りに集まっている町の女たちも、顔を伏せて言葉に詰まる感じだった。
嫌な予感が脳裏をよぎる……もしかしたら、町長の家族が人質に囚われているのかも知れない。それで、中央や近隣の大きな町に告発することも、助けを求めることもできなくされているのではないか?
これは、相当にヤバい話に巻き込まれた気がする。




