【癒やしの聖女】第4話 水汲み
……ガタン!
朝方。壁に頭をぶつけた衝撃で、一気に目が醒める。
「おはようございます」
ノアールが、暢気な声で朝の挨拶をしてくる。頭をぶつけた痛みで、わたしは返事ができなかった。
今朝……目が醒めて最初に視界に入ったのは、蛇の頭だった。チロチロと出し入れされる二股に別れた赤い舌に驚いて、身体を仰け反らせたら壁に頭がぶつかったのである。
昨夜は狭い場所なので、ノアールと密着して眠った。祭壇脇の隙間なので「もし他人が見たら驚くから、蛇は毛布から出さないように」とノアールに言い含めたはずだが……。
蛇の奴、勝手に毛布から頭を出してやがったのだ。
外では修道女と町の女たちが井戸から水を汲み上げているところだった。
「力持ちがいるから、水の汲み出しは任せてよ」
修道女も女たちも、力持ちとはわたしのことだと思ったかも知れない。「では、お願いします」と言って、みな建物の中に戻っていった。
ノアールが水運びをする間に、わたしは剣の素振りをする。すると、修道女の仕事を手伝っている住人たちが,ヒソヒソと何かを囁き始めるのがわかった。
一見か弱そうなノアールが、平然と水運びをしている姿に驚いたのか……それとも「また不埒な冒険者が流れて来た」と警戒したのか……まあ,両方かも知れない。
教会の中に設けられた貯水場に水を溜めるには、ノアールに十往復くらいさせたと思う。怪我人や病人の身体を拭いたり、毛布の洗濯をしたりで水を大量に使うそうだ。
実際に女たちが洗濯を始めたら、貯水場の水はすぐに減っていく。ノアールに水運びを再開させることになる。
ノアールの水運びのおかげで警戒心を解いてくれたのか、町の様子を聞くことができた。
何年か前。この町で流行病があったときに、ヤクトの町の教会本部から派遣されて来たのが、あの修道女だった。薬草や医術に詳しいのもあったが、何より献身的に病人の世話してくれたとか。流行病の心配がなくなった後も、一人残って医者のいない小さな町のために怪我人や病人を診てくれているそうだ。
……ドカドカ
……バタバタ
けたたましい音と共に、3人の男が飛び込んできた。逆に、礼拝堂は静まりかえる。
「……!」
真ん中の男の両肩を、左右から2人で支えている。真ん中の男は、顔が腫れて足から血が流れている。剣で斬り付けられた傷だ。
「シスター・エレネス、怪我人を診てくれ!」
「羊飼いのロディが、冒険者どもにやられた!」
洗濯をしていた一人が修道女を呼びに飛び出す。わたしも、怪我人を寝台に運ぶのを手伝うことにした。




