【癒やしの聖女】第3話 エルネス
修道女はエルネスと名乗った。祭服には赤い変形十字の紋が描かれているから、教会本部か神学校で医術を修めた者だろう。
「ここにいる怪我人は、魔蝙蝠にやられたのかい?」
自分で訊いておいて何だが……それはないはずだ。あんな巨大な魔蝙蝠に襲われたら怪我で済むとは思えない。
案の定、修道女は首を横に振った。
「実は……領主様に派遣された冒険者の方達に……」
「ええ?」
魔蝙蝠が脅威であっても、小さな町には退治できる冒険者はいなかった。それで近隣の大きな町の冒険者ギルドに相談したそうだ。巨大な魔蝙蝠の噂は領主の耳にも届いて、討伐のために冒険者を派遣してくれた……しかし。
「その冒険者が、魔蝙蝠退治もせずに、町で住民に狼藉を働いているのかい?」
「はい。商売や用事で隣町へ行く時などに、護衛と称して同行し金銭を要求するのです。それを拒否したら乱暴されますので、住民の方々は仕方なく護衛のお金を支払っています」
それでも魔蝙蝠から、身の安全が図れるなら仕方ないのではないか……と思ったら、そうでもない話だった。
「魔蝙蝠が根城にする森を避けて、遠回りをするのです。距離も時間もかかりますから、その分要求される金銭も高くなります」
なるほど。冒険者を自称する『ならず者』を引き当ててしまったわけだ。
それならノアールが魔蝙蝠を喰らってしまえば、その自称・冒険者もこの町に留まる口実がなくなるから一石二鳥になるな。
礼拝堂には、小さく区画された中に4人の怪我人と病人がいる。
日没の頃になると、修道女は夕食を用意した。大鍋で煮込んだスープを小さな器に盛り、黒パンを切る。それを配るのは、町の女たちだ。
男たちが力仕事、女たちが炊事を分担して、皆で教会を支えているらしいかった。
(男どもが美人に群がっていた……わけではなかったか)
町の男たちを見損なっていたことを少し反省する。
わたしとノアールのところにも、スープと黒パンが運ばれてきた。スープの具は少しの豆だけで、黒パンも一個を半分に切った小さなものだ。チーズや干し肉をかじれるわたしの方が贅沢だと言える。
「わたし達は、まだ保存食があるから大丈夫だよ」
どうせノアールは食べない。わたしの分だけなら、3食は保つはずだ。
森に魔蝙蝠がいたら、狩人や木樵は大変だろう。畑仕事や家畜の遊牧だって命がけかも知れない。そして、自称・冒険者の『ならず者』が町の住民を搾取しているわけだ。
剣をぶら下げた、冒険者然としたわたしが住民から警戒されるのは当然だった。




