【水魔】第9話 救出?
魔鯰は逃げ切れずに喰われてしまったから、ノアールの身体もまだ岸辺から離れてはいない。バタ足でも、直ぐにノアールのところへ到着できた。
「ラゲルナ様!」
何時になくノアールの声が甲高かった。丸太に掴まって水の中を進んできたわたしに、ノアールがしがみ付いてくる。
……まさか、本当に溺れていたのか?
ノアールの腕がわたしの首に抱きつき、右手の鉤爪がわたしの右肩に刺さる。結構痛いのだが、それはまだいい。蛇の触手も長く伸びて、わたしの身体に巻き付いてくる。
裸の肌の上を、蛇の鱗で撫でられるのはキツい。わたしの顔のすぐ横に、4匹の蛇の頭があるのだが……蛇の奴、丸太に顎を乗せて安堵してやがる。
岸辺にいるロベルトとランスが、丸太に結んであるロープを引っ張ってくれたので、わたしとノアールは岸辺に移動できた。
陸に上がって、ようやくノアールの蛇がわたしの身体から離れた。
「……」
一応、ロベルトとランスは「ノアールが只の魔法使いではない」ことは知っているはずだが、それでもノアールの異形の身体を間近で見るランスの顔には、困惑の色が露骨に浮かんでいた。
魔法使いのロベルトは、魔法に慣れている分だけ対応が早いようだ。すぐに2人分の浴布を用意してくれた。
「僕たちは、街道沿いの野営地に戻っています。落ち着いたらそちらへ来て下さい。町まで船で送りますから」
女2人が裸でいることに気を回してくれたか。ロベルトがランスの背中を押しながら、その場から立ち去っていく。
ロベルトとランスの背中が見えなくなると、わたしはため息を漏らした。
「ノアールは飛べるんだろう。何で、溺れてるのさ?」
ノアールは、キョトンとした顔でわたしを見る。それから首を左と右に向けて、自分の左右の肩を見た。
「空を飛べても、鯰さんは大きすぎて持ち上げられません」
困った顔のノアールに、今度はわたしが言葉を失う。いや、持ち上げなくても溺れる前に飛べばいいと思うぞ。
「水の中に逃げられる前に、どうやって喰らうかを考えていたので……喰らい終わったら水の中でした」
まあ……少しでも手を緩めたら魔鯰は深瀬に逃てしまっただろうから、背中にしがみ付くしかなかったのはわかる。
そして、翼を出すことを思いつく前に水に沈んでしまったことにしておこう。
「でも、ラゲルナ様が助けに来て下さいました」
「……」
ニッコリと笑うノールに、別の意味で言葉を失ってしまった。
ノアールをその場に立たせて浴布で濡れた身体を拭く。ノアールの長い黒髪は乾かすのに時間がかかるな。




