【ラゲルナの厄日】第8話 捕らぬ狸の皮算用?
兵舎の一室で「傭兵として野盗討伐に参加する」旨の契約書を前にして、レイドリク伯の推薦状を見せた。いつも、冒険者ギルドで身元確認される時に見せているものだ。
すると、副団長の態度がまた改まる。
「あの、レイドリク伯殿がこれほど信頼を寄せる戦士だったとは……大変失礼した。無礼を、許して頂きたい」
このフェアトレー辺境伯領にも、レイドリク伯の武勇は伝わっているらしい。まあ、王国随一とも言われている戦上手で、伯自身も勇猛な戦士だからな。
「この推薦状を先に見せて頂けていたなら、あのような腕試しなど不要。お手を煩わせたことを重ねて謝罪する」
いや、謝罪されたら金貨5枚を取り立て難くなるから止めて欲しいぞ。
「ところで、謝礼の金貨5枚だが……」
そう、それが大事な話だ。
「実は、今は持ち合わせがないのだ。野盗討伐が果たされれば、グレイドミー卿やセグルの町の商業ギルドから討伐隊に報奨金が出る。それまで待って頂きたい」
「……え?」
思わず、声が上擦ってしまった。それって、野盗討伐が上手くいかないと、金貨5枚も取り損ねてしまうと言うことではないか!
金貨5枚貰っての「野盗討伐をそこそこにして旅立つ」計画は潰えるかも……捕らぬ狸の皮算用していたわたしの肩が大きく落ちる。
副団長によると、街道で商人や旅人を狙う野盗たちは30人程度。どうやら5つか6つの集団が、連携なり同盟なりを組んで組織的な動きをしている。昨日、令嬢の馬車を襲った連中は、その末端にいる集団だろうとのこと。
「代官屋敷の騎士と集まった傭兵や冒険者で、既に40人だ。明後日の出陣までには60人を越えるだろうから、圧倒的な戦力で討伐に望める」
副団長は、討伐隊の成功を確信していた。更に……。
今回の野盗討伐は、グレイドミー卿の長男が代官屋敷の騎士団長となり、その初陣を飾る戦いだとか。なので、絶対に負けられない戦いであり、入念な事前準備を整えて討伐に望むと言う。
わたしは、目眩がして来た。
昨夜の晩餐会には、セグルの町の名士と言われる連中が集まっていた。「代官様が、野党を討伐する兵を出す」のは、直ぐに町で噂になるはずだ。それが野党どもの耳にも入るだろう。いや、町の名士とされる中にも、野党と繋がる者がいても不思議はない。
出陣が明後日なら、地の利を活かした罠を仕掛ける時間は十分にある。倍の兵数で攻め込んでも勝てる保証はないぞ。
金貨5枚を確実にするためだと割り切って、わたしはノアールに助けを求めた。
「ノアール、助けておくれ」




