【ラゲルナの厄日】第7話 八百長
海賊の剣の方が、ロングソードよりも重い。勢いをのせた斬撃を受けたら不利だと察した副団長は、ロングソードに両手を添えて、距離を詰めた鍔迫り合いに持ち込んでくる。
力押しなら、女のわたしよりも優位を取れると思ったか。
副団長の方が、わたしよりも身体は大きい。しかし、その判断は、重い海賊の剣を振り回すわたしの膂力を舐めている。
力押しするつもりが、逆に力負けして押されてしまい、そこで副団長の顔色が変わった。
「負けてくれ!」
鍔迫り合いで、互いの顔は近くにある。小さな声で、しかし必死の形相で副団長が囁いてきた。
「は?」
「金貨三枚でどうだ?」
副団長は、見物人の方をチラチラ見ながら小声で交渉してきた。最初は、意味がわからず返事ができないでいると……。
「ご……五枚だ! 金貨五枚!」
「いいだろう!」
なるほど……この場で負けたら、副団長としての威信に関わるな。部下たちへの示しもつかなくなるから、威信を金貨五枚で買うと言うわけだ。
意外な商売もあるもだと思いつつ、余所者のわたしに取っては何のデメリットもない儲け話と承諾する。
鍔迫り合いから、押し返されるように見せかける。力比べに負けて弾かれた海賊の剣……そこに副団長はロングソードを叩き付けてきた。
わたしが剣を握る手を離すと、海賊の剣が地面に落ちる。副団長の一撃で、剣を叩き落とされたように見えただろう。
そこで、わたしが敗けを認めた声を上げる。
「まいった!」
わたしの声に応じるように、見物する騎士たちが歓声を上げた。安堵のため息を漏らす副団長は、騎士たちに手を挙げて応えながら、わたしの方に申し訳なさそうな視線を向ける。
「いや……なかなかの腕前だ。これならば申し分ない、部屋に戻って契約の手続きを進めようではないか」
そそくさとその場を離れる副団長の背中を見ながら、わたしは海賊の剣を拾い上げる。
「これで……金貨五枚か」
気分としては悪くない……冒険者として魔物を狩ったり、傭兵として野盗を討伐するよりもずっと楽な商売だと思う。
正直なところ「もう十分稼いだから、このセグルの町での野盗討伐も止めて、ノアールを連れてすぐに旅に戻ろう」かとも考えた。
いや、それだとグレイドミー卿やエミリーお嬢様に申し訳ないな。
吟遊詩人に歌まで作らせて、わたしを歓待してくれたのだ。それなりの戦果を残さないとグレイドミー卿の面子にも関わりそうだ。
しかし、今回の野盗討伐は「グレイドミー卿の思い通りにはいかない」可能性も予測できるのだ。




