【ラゲルナの厄日】第4話 砂を噛む?
折角着付けて貰ったドレスだが、わたしにとっては息苦しいだけだな。胸の膨らみと腰の丸みを強調するために、腹周りをきつく絞って細く見せているせいだ。更に、固いサンダルのせいで足を出すたびに蹌踉けそうになる。
「動きにくそうな服ですね」
着替えなかったノアールは、着慣れた緑の服である。
てっきり綺麗なドレスに興味を持つかと思ったが、全然そんな様子はない。ドレスに施された金糸や銀糸の豪華な刺繍も関心が湧かないようだ。
わたしが着せられたドレスを見るノアールの顔には「何故そんな服を着るのか」と言う疑問だけが浮かんでいる。
「儀式……みたいなものかね」
「お祭りのための衣装ですね!」
何やら、一人で合点がいったらしいノアールが頷いている。まあ、あながち外れてないかも知れない。
少女のメイドに案内されて大広間に入ると、馬車にいた令嬢が着飾った騎士を伴って近づいて来た。その騎士様が、令嬢の父であり、この地の代官を任されているグレイドミー卿だと紹介される。
令嬢を助けた件への謝辞とともに、野盗の頭目を倒した剣の腕を褒められた。
調理された肉や酒が並べられる大テーブルの周囲には、他に十人弱の正装をした客人たちがいて、グレイドミー卿から「娘を助けてくれた恩人」として、また「腕の立つ女戦士」として紹介される。
その客人たちが、セグルの町の町長や名士の面々、それに冒険者や商業ギルドの長らしい。
「ほう? なかなかの美人ではないか」
ドレスのせいか、好奇な視線が集まった。これなら戦士の正装である「鎖帷子にサーコート」の方が良かったかと思う。
皆からワインを勧められたが、それは断った。馬車に酔った内蔵を更に酒で酔わすのは御免だ。
食事の方は豪華なもので、焼きたての肉は久しぶりだった。
大皿に盛られた肉をナイフで切り取って、白パンと一緒にようやく落ち着いた内蔵に詰め込むことにする。
ノアールの前にも、細切れになった肉をのせた小皿とやはり細く切られた白パンが並んでいた。あの、少女のメイドが傍について「右手が不自由」なノアールのために、食事を取り分けてくれているのだ。
「折角の気遣いだから、食べておきな」
「はい」
ノアールは、左手で肉や白パンを摘まんで口に運ぶ。ノアールに『人のフリ』をさせてから、ふと考えてしまう。
(味覚がないのに、ものを食べるのはどう言う感覚なのだろうか)
人であれば「砂を噛む」と言う例えがあるが……もしかしたら、わたしはノアールに辛いことをさせているのかも知れない。




