【ラゲルナの厄日】第3話 着替え?
開け放った窓から肉を焼く匂いが、流れ込んでくる。夕食の仕度とやらも、そろそろ調うのだろうな。多少休んだおかげで、何とか腹に食事は入れらるかも知れない。
そう思っていたら、部屋の扉がノックされる。
「食事の用意ができました」
扉が開いて、あの少女のメイドがぺこりとお辞儀をした。
「お召し替えをさせて頂きます」
「……?」
言うなり少女のメイドの後ろから、二人のメイドが各々ドレスを持って部屋に入って来た。ドレスを運んで来た二人のメイドは、16歳くらいの年長組だ。
この代官屋敷では、食事の際には正装をするのか。それとも、おもてなしの晩餐会でもしてくれるのか。
一人のメイドは、わたしの傍へ来て当たり前に服を脱がせようとする。ノアールの方へ近づいたメイドも、緑の服のマントに手をかけた。……いや、待て!
(ノアールを着替えさせるつもりか?)
お気に入りの服に手をかけられてノアールの眸に怒気が籠もる。しかし、当のメイドはそんなことを想像していない。
「止めな!」
思わず、わたしはそのメイドを突き飛ばしてしまった。尻餅をついて、メイドは憮然とした顔をわたしに向ける。わたしを着替えさせようとしていたメイドも、同じような顔でこちらを見ている。
批難の視線……と言うよりも「野蛮人だから仕方ない」的な諦感の混じる視線のような気がする。
(数瞬遅れていたら、アンタらは斬り裂かれていたんだぞ)
仕方ないから、その言葉は飲み込んだ。
「申し訳ありません。不用意で御座いました」
慌てた少女が前に出て、その場を取りなそうと頭を下げた。わたしは、頭を下げている少女の耳元に口を寄せて「この娘は、右手が不自由なので隠しているのだ」と告げることにした。
……ノアールの右手は、そう言うことにして誤魔化そう。
それを聴いたメイドは、ハッとして更に深く頭を下げた。
「知らぬ事とは言え、大変失礼なマネをしてしまいました。どうか、お許し下さいませ」
ノアールの前にも行って、真剣な表情で頭を下げて謝罪した。
「もう良いですよ」
ノアールの返事に、少女は安堵する。他人の話を聞かないノアールが返事をしたのは意外だ。ノアールは少女が気に入ったのだろう。
わたしも着替えを突っぱねたかったのだが……少女の顔を立てる意味で、わたしだけドレスに着替えることにする。
「肉料理の脂で、自分の服が汚れないで済むんだからいいか」
食事の用意がされていると言う広間に、少女の案内で向かう。少女によると「野盗討伐の出陣式」を兼ねた晩餐会だと言う。




