【ラゲルナの厄日】第2話 胸がムカムカする
今。わたしとノアールは、セグルの町を目指している。このまま歩けば、日没前に到着できるはずだった。
セグルの町は、辺境伯の直轄地で代官も置かれている大きく栄えている町である。しかし、町を往来する商人や旅人を狙う野盗が増えた。その野盗狩りを行うために、代官が冒険者ギルドに「人集め」の依頼を出したのだ。
隣町でその話を聞いたわたしは、ちょうど通り道でもあるので、野盗狩りで路銀稼ぎするつもりだった。
「まあ、そうだったのですね。重ねて、御礼を申し上げねばなりませんわ」
偶然に野盗から助けた馬車にいた女性は、セグルの町の代官の令嬢だそうだ。
「それならば、ぜひ我が父に、貴女様を紹介させて下さい」
令嬢は、恩返しの機会とばかり無邪気な笑顔を見せた。
冒険者としてギルドを通して参加するより、代官に直接雇われて参加する方が報酬は高いだろうな。同じ仕事で割が良くなるなら、その方が……と打算が働いてしまう。
令嬢は、この地の代官であるグレイドミー卿の末娘でエミリーと名乗った。父であるグレイドミー卿は代官屋敷で、野盗狩りの準備を進めているそうだ。
馬車に乗るよう誘われたが、わたしは馬車で長い時間揺れるのは避けたい。断ろうと思ったが、無邪気なエミリー嬢に笑顔で「セグルの町は、すぐそこです」と言われると断り難い。
「ラゲルナ様、顔色が優れませんよ」
ノアールに心配されながら、結局は日没近くまで馬車に揺られることになる。代官屋敷は、町の中ではなく……町を通り過ぎた先の丘の上にあった。馬車の揺れに酔ってヘロヘロになってしまったわたしは、グレイドミー卿への紹介を後回しにして休ませて貰うことにした。
わたし達が通されたのは客間だった。人集めに応じて来たのだから、兵の宿舎とかをあてがわれると思っていたから意外ではある。
一応は、野盗から助けた恩人扱いと言うことか。
「では、食事の用意が整いましたらお声をかけさせて頂きます」
メイド服の少女が、ペコリと頭を下げて部屋を出て行った。エミリー嬢のお付きのメイドらしく、馬車でも一緒だった。十三か十四才くらいか……風変わりな緑の服を着ているノアールを、珍しそうに見ていたな。
ノアールも子供好きだから、子供に見られるのは悪い気はしてないだろう。
「大丈夫ですか、ラゲルナ様」
人外のモノに健康を気遣われてしまっている。
ここに到着するまでに、何度も馬車を止めて貰って吐き戻した。お陰様で、わたしの腹の中は空っぽのはずだ。なのに、腹から胸にかけてムカムカして全然食欲がない。




