【ラゲルナの厄日】第1話 お招き
「アンタたちの選択肢は二つ。このまま立ち去るか、痛い思いをしてから立ち去るか。どちらでも好きな方を選びな」
六頭立ての豪華な馬車を取り囲んでいた野盗どもは、わたしの声に反応して一斉にこちらへ向き直る。揃って人相の悪い顔が並んでいやがる。
しかし、人相以上に頭のできも悪い。同情はしないが、不幸なのは認めよう。
六人の野盗どもは、わたしとノアールが女二人だからとニヤけた笑いを浮かべながら、馬車を放ってわたし達を取り囲んできた。
馬車の御者席から、御者がこちらを覗き見たので「行け!」と合図を送る。
「……な?」
「待ちやがれ!」
走り去る馬車に、大声で騒ぎ始めた。いや、普通にそうなるだろう。
わたしとノアールへの包囲を崩して、今度は馬車を追いかけようとする。その、隙だらけの背中を見せた野盗の一人の襟首を掴んだ。そのまま、後ろに引き倒す。
仰向けに引っ繰り返ったところへ海賊の剣を振り下ろした。
「うぎゃあ!」
左脚は折れたと思うが、どうせ野盗だ。構わないだろう。
仲間が一人やられて、残る五人も本気になったか。ロングソードを中腰で構えて、わたし達を改めて囲んでくる。
さすがに前後左右から一斉に斬り掛かられるのは面倒だ。一番近くにいた奴の方へ踏み込んで海賊の剣を真横に振り抜く。使い込んでいるから刃は鈍になっているが、斬撃は重い。脇腹に一撃を食らった野盗の身体は吹っ飛んた。そして、振り向きざまに、もう一人吹っ飛ばす。
「お頭がやられた!」
「に、逃げろぉ」
残る三人は一斉に馬車とは反対方向に駆け出した。
何だ……今のどちらが、野盗の頭目だったのか。何はともあれ、ノアールがしゃしゃり出てくる前に逃げ出したことだけは良い判断だと思うぞ。
ノビている野盗は、仲間にも見捨てられたんだから、わたしが捨て置いてもいいはずだ。
わたしとノアールは、また街道を歩き始める。
しばらく歩いていると、先ほどの馬車が、馬に乗った騎士に守られて戻って来た。わたしを見た御者が馬車を止める。
「先ほどは、ありがとうございます」
御者席を降りた御者が、わたしの前に来て丁寧に頭を下げた。それから客車の方に合図を送る。
客車の扉が開き、綺麗なドレスに身を包む若い女が、メイドを従えて出てきた。
「お助け下さり、ありがとう御座いました」
十代後半くらいだろうか。柔和な笑顔の、品の良さそうな女性である。
「御礼を致したく思います。差し障りなければ、屋敷の方に立ち寄って下さいませ」
ああ……これは、招きに応じると面倒事に巻き込まれる流れだな。




