【水魔】第8話 溺れる?
トレールの町の冒険者は、魔鯰をこれまで倒せずにいた。
「特別な呪具を用意して、幾人もの冒険者が協力して、魔鯰を追い詰めることはできたんです。けれど、魔鯰には地面を揺さぶる特殊な能力があって、それが湖に大波を起こすんです。船を転覆させられたこともありますし、何とか陸に引きずり上げても、今回のように大波を起こして水の引く流れに乗って逃げられました」
地面を揺さぶる特殊な能力だって?
ああ、そう言えば聞いた気がする。「気をつけろ」とも言われたかも知れない。
しかし、だ。
誰が「あんなコト」だと想像できるか!
船を転覆されないように陸にいたんだぞ。大波に攫われないように水際からも離れたんだぞ。なのに、何故……陸の上で船酔いしそうになるんだよ!
ノアールに喰われて魔鯰は完全に消滅した。
その背中にいたノアールは、足場を失い湖の中に沈んでいった。
……沈む?
湖面からノアールが顔を出す。長い黒髪が水面に開いた花弁のように広がって見えた。口を大きく開けて息を吸うが直ぐにまた湖水に沈んでいく。裂けた口は元の美しい顔に戻っていた。
数瞬の後、また顔を出して……また沈む。
「おい。あれは溺れてるんじゃないのか?」
ランスの声で気付いたのだが、ノアールが泳げるかどうかは確認していなかった。しかし、泳げなくても飛べるはずだぞ。ノアールは、背中に白と黒の翼を具現化させられる。
顔を出して息を継いで、また沈む。何度か、そんなことを繰り返していた。
「深瀬の方に流されてます、早く助けないと!」
ノアールは、白と黒の翼を出すのを何故か面倒がっていたのだが……まさか、この場面でも面倒くさがるのか?
それとも、水の中ではノアールは力が使えなくなったりするのか?
ロベルトは慌てながらも、大急ぎでロープを用意してくれた。ロープを持って、ランスが水に飛び込もうとした。
「待ちな。わたしが行くよ」
わたしの声に、ランスとロベルトが振り返る。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫かよ?」
今回は、ずっと「大丈夫か?」と心配され続けている気がしたが、どんなに泳ぎが達者でも《《あの》》異形の身体にしがみ付かれたら「大丈夫」ではなくなるだろう。泳げなくても、わたしが行った方がマシな気がする。
暴れた魔鯰に倒された木々のほとんどは、波に攫われて湖に流れているが、人2人分が掴まれそうな倒木も残っている。大人の胴体ほどの倒木にロープを結びつけて貰った。
泳げなくても浮く物に掴まれば、バタ足で移動はできる。裸になり、水に浮かべた倒木に掴まってノアールを助けに向かう。




