【拾い集めるモノ】第29話 つかの間?
数日後、頼んでいた服が仕上がった。
仕立屋から受け取った新しい緑の服を着たノアールは、わたしの前でクルクルと身体を回している。
美人の嬉しそうにしている笑顔は、男どもが見たら大喜びしそうだ。
右の鉤爪を通すために、右肩から右袖を切り落としてあるが、その部分には装飾に見せかけた厚手の布で補強してくれていた。仕上げは、とても丁寧だ。
「似合いますか?」
「ああ、よく似合ってるよ」
わたしは、ノアールの肩にマントを結ぶために近づいた。マントは、肩から太股くらいまでの長さで、ノアールのが鉤爪のある右半身を隠すためのものだ。一本の紐で止めてあるから、左手で紐を解けば直ぐに外せる。
スカートも、右脚を包む部分と左脚を包む部分が別れていて、蛇の触手のある左脚は直ぐに露出できるようにしてある。
「これでいいよ。折角だから町に出て、ついでに買い出しをしてこようか」
「はい!」
このナザレの町での用事は済んだから、そろそろ旅に戻るつもりでいる。そのために保存食や身の回りのものを揃えておこうと言うことだ。
「おや? きれいだねぇ。こっちの方が、断然似合うよ」
緑の服を着たノアールを見た宿の女将さんの言葉に、ノアールが嬉しそうに「はい」と返事をする。
緑の服は、黒い髪のノアールによく映えると思う。
買い物のついでに、外で夕食を済ませてから宿屋に戻る。
宿の女将さんから「ログールから伝言があった」と言われた。また、魔物退治の手伝いだろうか?……今度は、ノアールをどうやって説得しようか。
もう日没だし、明日にでもギルドの方へ行けばいいと思って、その日は剣の素振りをして部屋に戻ることにする。
日没後。ノアールは、脱いだ服を寝台に広げて左手で丁寧に畳んでいる。
「これで、いつでも旅に戻れるね。行ってみたい所はあるかい?」
わたしとノアールの旅に、これと言った目的地はない。ノアールが「頭の中に『こっちへ』と響いてきました」と言う方角へ向かうだけである。それが『拾い集めるモノの本能』なのか『神の啓示』なのかはわからない。
「うーん……今は、特に頭の中に響いてきていません」
寝台の上の緑の服をたたみ終えたノアールは、そう答えた。
「そう? それなら火の山の方へ行ってみようか」
正直に言うと、わたしとしては「イカサマ魔法使いを追いかけよう」とは思っていない。もしも、魔石を持って逃げているならまた何かしでかして噂になるだろうし、魔石を持っていないのなら追いかける価値はない。
それなら、ノアールに温泉でも体験させてやりたい。




