【拾い集めるモノ】第26話 工房への招待?
そこで一旦言葉を区切ると、男は目を瞑って深く頭を下げた。
「私がせねばならなかったことでした。その役目を、代わりに果たして頂いたことに御礼を申し上げねばなりません」
周囲には、人が隠れている気配はなく、この男は本当に一人のようだ。それでも、わたしが剣を納めるつもりはなかった。
「挨拶か御礼が済んだのなら、もう良いだろう。さっさと立ち去っておくれ」
魔法使いであれば、あの草臥れたローブの下には呪具や呪符を隠しているだろう。不用意に背中を見せたくないから、男の方からこの場を離れて貰う。
一向に警戒を解かないわたしに、男の顔に微かな苛立ちが浮かび上がる。
「影の役目を言い付かって来た私が、お二人の前に姿を晒したのは、改めてのお願いがあってのこと……お二人を、我が師匠の工房に招待させて頂きたいのです」
師匠の工房に招待?
「本来は『拾い集めるモノ』が在るならば、自ら足を運んで挨拶に参るのが魔法使いの礼儀と存じます。しかしながら、我が師匠は脚を痛めて動けません。魔法使いの長たる身で、この機会を失う訳にも参りません。どうか、師匠の元へ来訪して頂けないでしょうか」
「断る」
即答されたのが意外だったのか、男は目と口をあんぐりと開いていた。エロイーズに同行するのも断ったのだ。この男の招待を受けるつもりはない。
「あの……決して、我々に二つ心はありません。魔法使いとして『拾い集めるモノ』に対する天命を果たしたいとの思いだけです」
魔法使いの天命……神々の残滓を拾い集めることに「力を貸す」ことだっけ? 正直なところ、出張ってくるより放っておいてくれた方が有り難い。
男は、視線をわたしからノアールの方へ向けた。交渉の相手をノアールにするつもりのようだ。
「我らは『拾い集めるモノ』を支援するに十分な力を備えていると自負しております。その力の片鱗を、お見せしましょう」
男の右手が、ローブの懐へ伸びる。わたしは海賊の剣を握る右手に力を込めた。
男の懐の辺りが目映い光りを放った。思わず目が眩む……反射的に、わたしはその場を蹴って地面を転がりながら距離を取った。
数瞬の後、視界が戻る。わたしが立っていた辺りに数本の光の柱が天に向かって伸びているのが見えた。
「あら、まあ?」
光りの柱に周囲を囲まれてしまったノアールは、暢気な声を出して、天に伸びる光の柱を見上げている。
光の柱は、ノアールの右後方と左、そして正面の3箇所にある。柱と柱の間には細い光が蜘蛛の巣のように張り巡し、その中に獲物を閉じ込める魔法らしい。




