【水魔】第7話 決着
湖に向かって引いてゆく水の流れに乗って、魔鯰は水の上に戻った。しかし、まだ深瀬にはたどり着けずに背中が水面から出たままだ。
その背中にノアールがしがみ付いている。
ドス黒くヌメヌメとした背中は、滑ってしまうようで立ち上がろうとしても立ち上がれない。鉤爪を魔鯰の肉に食い込ませて、何とか身体を支えている感じだった。
ノアールの左脚から伸びる4匹の蛇が、異様に長くなった。大人の背丈2人くらいの高さにまで伸びている。
ノアールによると「蛇の触手は左脚から生えている」のではなく、流れ出している『神々の残滓=魔力』がその姿に具現化しているだけだから、流れ出る量と勢い次第でいくらでも長く遠くへ伸ばせるらしい。
右手の鉤爪は、どうなのだろうか?
あれは、どう見ても実体の鉤爪としか思えないのだが。
『妾は未熟者なので魔力の制御ができないんです。右手と左脚からは魔力が流れ出てしまっています』
そうも言っていたっけ?
だから、魔鯰を誘い出すためには、魔力で察知されないようにわたしから離れていたのか。
ノアールの左脚から伸びる4匹の蛇が更に長く伸びて、魔鯰の背中に散らばり牙を立てて喰らい付く。その傷口から黒い砂が噴き出し、魔鯰は苦しさに水を漕ぐことができない。黒い砂を噴き出すことで、魔鯰の巨体が萎んでゆくようだ。
背中にしがみ付いているノアールの双眸が細くなる。耳元まで裂けた口がニタリと笑ったような気がした。
4匹の蛇の触手は、魔鯰から離れて、ノアールの頭の高さに鎌首を揃えて動きを止める。噴き出す黒い砂の勢いが少しずつ弱くなり始めた。
魔鯰の背中で中腰の姿勢になったノアールの足下が、湖面から立ち上る白い靄に包まれた。
魔鯰の巨大が、解けて白い靄になっていくように見える。もう、黒い砂も噴き出していない。
ドタバタと、複数の足音が背後から聞こえて来た。
「おい、大丈夫か!」
トレールの町で知り合った冒険者で、ランスの声だ。
「魔鯰です!」
ロベルトが湖面で消えてゆく魔鯰を指差して叫ぶ。
「おいおい。本当に……2人だけで退治したのかよ」
湖の浅瀬辺りで、白い靄になって解けてゆく魔鯰を呆然と見つめるランス。年下のはずのロベルトの方が落ち着いている。
「地面が大きく揺れましたので、魔鯰に何かあったのだと思ったんですよ。魔鯰は地面を揺らせて、水面に大きな波を作れるんです」
さき程の揺れは魔鯰が起こしたのか?
思わず、陸の上で船酔いしそうになったぞ。初めて海賊船に乗ったのは小娘の頃だったが、その昔を思い出してしまった。




