【拾い集めるモノ】第19話 風の流れ
地の裂け目から噴き出した炎は、ノアールの右半身を焦がした。
髪の毛と肉の焼ける臭いが鼻をつく。美しい顔の右半分が焼けただれて、ローブから突き出した鉤爪も消し炭と化していた。
⋯⋯ビチャ
焼けて瞼を失った右の眼孔から、眼球がドロリと足元に落ちる
「ノアール!」
エロイーズは悲痛な絶叫をあげ、スネートは満願の笑み浮かべた。
「少しは身に浸みたかい? 僕には逆らわない方がいいよ!」
アーハッハッハ!
自らの勝利を確信したスネートの高笑いが響き渡る。
魔法の方は天才らしいが、戦いの駆け引きは素人だな。風の流れが変わったことには気付いていない。
ノアールの口元から赤い舌がチラリとのぞく。そして、スネートの方へ再び歩き出す。ほんの数歩歩くうちに、ノアールの顔は元の美しい顔に戻っていた。右の鉤爪も元通りだ。
「!」
スネートの顔が口惜しさに歪む。再び懐から取り出した呪符を、ノアールに向かって投げつけた。しかし、その呪符はノアールに届く前に、空間に消えてしまう。
「……なに?」
スネートの頭上から足下へ、投げたはずの呪符が落ちてくる。地面に落ちた呪符は、今度はスネートの足下の地面を裂いて青白い炎を吹き上げた。
「……ひぃぃぃぃぃいい」
スネートのローブが燃えた。
間一髪、身を捩って炎の直撃を避けたスネートは、燃えるローブの火を消すためにゴロゴロと転がっていく。何とか火を消して、焦げ臭い白煙の中に身を起こしたスネートの側には、ノアールが立っていた。
「わ……わかったよ。ラゲルナを、あなたの相棒だと認めるよ!」
声が裏返っているから、相当怖かったんだな。多分……攻撃するだけで、される経験はしてないのだろう。
ノアールは、スネートを見下ろしているだけで口を開かない。その沈黙を、スネートは承諾だと解釈したらしい。スネートの声の調子が、元の横柄な態度に戻る。
「こっちは譲歩したんだ。ちゃんと、魔を集める仕事はやって貰うよ」
ノアールが、右の鉤爪をスネートへ伸ばす。
「へえ。洒落たことを知ってるねぇ」
握手……と思ったのだろう。スネートは、ノアールの鉤爪を自分の右手で握った。しかし。
「うぎゃぁぁああああああ」
スネートの右手は、鉤爪に握り潰されていた。グシャグシャになり、砕けた骨が突き出す右手を抱えたスネートは、激痛にのたうち回る。
「ラゲルナ様が妾を選び、妾がラゲルナ様を選んだのです。それに干渉する者は、何者であろうと許しません」
蹲って声にならない呻き声を漏らしているスネートに、ノアールが背後から近づいて行く。




