【水魔】第6話 神々の残滓
太古の昔。神々は世界を創った。
そして陸に海に空に命が溢れた後……神々は、この世界から消えてしまった。
神々は消えても、世界を創造する力の片鱗は、今も世界に漂っている。それをノアールは『神々の残滓』と呼んでいる。
神々の残滓は、人の心に集まる。邪な人の心に集まれば『魔』となり清浄な心に集まれば『聖』になる。
邪な人の心に集まった『神々の残滓』が、具現化したもの……それが魔物だ。魔物は人の心の「負の部分」を求めている。
……恐怖……嫉妬
……呪い……恨み
人の心に「負の部分」を撒き散らすために、魔物は人を襲い、恐怖させ、恨みや呪いを誘う。魔物にとって、人の存在は『贄』であり、人でしか『贄』になり得ない。
おそらく、人と魔物の間には共存は有り得ないと思う。
ノアールは、神々の残滓を『拾い集める者』らしい。
だから、神々の残滓が具現化した魔物は、ノアールにとっては拾い集める獲物であり、喰らうことが拾い集めることになる。
『実はわたし、神託に予言されてこの世界に召喚されたんです。だから、神の使徒なんですよ!』
初めて出会ったときに、ノアールはそう言っていた。
わたしと出会う前のノアールは、魔を探して喰らうためだけにずっと森を1人で彷徨っていた。だから、海を見たことはないのだと思う。
海の水が塩辛くて、陸の川や湖とは棲んでいる魚たちの種類が違うことも知らないに違いない。
以前……わたしが話した「海」のことを、ノアールは気にしていたのか?
ゴゴゴゴゴォ
不意に、大地が揺れ始めた。垂直方向に小刻みに揺れた後で、水平方向に緩く大きく揺れる。まるで大船で、陸が見えなくなる沖合に出て嵐に見舞われたような揺れ方だ。
……落ちこぼれ海賊のわたしは船酔い体質なんだ!
故郷の北の地で、船に乗せられ、船酔いで七転八倒した記憶がよみがえってくる。膝が震え出すので、近くの木を抱えてへたり込んだ。口の中も酸っぱくなってきて、本当にヤバい気がしてきた。
湖の湖面にも大きな波が生じて、湖畔に押し寄せてくる。
湖面が膝の高さくらいに持ち上がって、それが魔鯰のいる岸辺を水で溢れさせた。水を得た魔鯰は尾ヒレで地面を叩き、胸ビレで水を漕ぐように湖へ向かおうとする。
更に、岸辺を溢れさせた水は再び湖に引いてゆく。魔鯰は、巨体をその水の流れに乗せた。
「ノアール!」
魔鯰を逃がすまいと鉤爪をその背中に食い込ませたが、ノアールの怪力でも勢いのある水の流れには逆らえなかった。ノアールの身体の方が、魔鯰と一緒に湖の方に流されて行く。




