【拾い集めるモノ】第4話 黒い美人
イカサマ魔法使いが工房にしていた小屋の前に、ノアールを立たせてみる。
「この小屋の中に、何かありそうかい?」
「さあ? わかりません」
ノアールは、わたしの方を見て微笑んだ。食い意地の張ってるノアールが「わかりません」と言うなら、特にめぼしいモノはないのかも知れない。
ノアールは、小屋の扉から視線を上げて空を仰ぐ。小さく小首を傾げながら、言葉を続けた。
「森に漂う魔は、少し濃い気がしますが……特に、珍しい魔物の気配はありません。魔狼とか魔猪しかいないでしょう」
いや。普通の人には、それで十分に脅威なんだけどね。どうやら、ノアール本人は「珍しい魔物を喰らいたい」から他の土地へ行きたいようだ。
黒のローブを羽織ったノアールは、傍目には美人の女魔法使いに見える。実際、ログール達もそう信じている。
しかし、本当は『魔を喰らう』人外の存在である。見た目こそ美しい女の姿をしているが、ローブの下に隠した右手は猛禽類のような鉤爪だし、左脚には蛇の頭を持つ触手がある。
そして、圧倒的に強い。それなりの冒険者でも集団で対処しなければならない強力な魔物である魔牛すら一撃で引き裂いてしまう。
どう言うわけか……最近は、珍しい魔物を《《喰らいたがる》》ようになりやがった。
(味覚がないくせに、魔物の味はわかるのか?)
とは言え「魔が濃い」と言うなら、その原因があるはずなのだ。それは確認しておきたいと思う。
「町に仕立屋があったはずだよ。腕の良い仕立屋なら、新しい服を新調したいよね」
仕立屋……の単語に、ノアールの双眸が輝く。少し前に、お気に入りの緑の服を駄目にしてしまい、新しく服を作ることになっている。
「はい、新調したいです!」
「じゃあ、町に戻ったら仕立屋に相談に行こうか。緑色の布生地があれば、ちょうど良いね」
「はい!」
これで……布生地を相談する口実で、数日は町に留まれる。
小屋の周囲を一回りして、ログール達の食事をしていた場所へ戻る。ちょうど、彼らも食事を終えたところだった。ログールが、空になった鍋を片付け始める。
「なかなか美味かったぞ。女に料理して貰うのは、それだけでも有り難いな」
お世辞だな。わたしも自分で食べたから、味が良くなかったのは知ってる。
いや。ログール達の視線は、わたしの後ろのノアールに向いている。調理したのを、ノアールだと思っているのか?
まあ……美人が調理したものなら、それだけで美味しく感じられるかも知れない。今は、男どもの妄想に水を差すのは止めておいてあげよう。




