【狙われたノアール】第20話 右手の後始末
人型の魔物に奪われたノアールの右腕は、机の上でピクピクと動いていた。切り離された肘の上の部分には肉塊ができており、それは人の赤子の形になっていた。
「間に合いませんでした」
赤子には、頭も両足も左腕も小さいながら形作られている。左腕だけが、不自然に大きな子供……そんな姿だった。
「魔石が撒き散らす魔を吸収して、途轍もない早さで成長しています」
その通りだった。膝をついて四つん這いになっていた赤子は、見る間に二本の足で立ち上がろうとしている。
「このままにしておいたら……妾ではない、もう一人の妾に育ってしまいます。もちろん、神の加護のない存在ですから、神の使徒ではありません。ただの魔物です」
ノアールは、右の鉤爪で「赤子の姿になった右手」を掴む。
美しい顔に亀裂が走り、口が耳元まで裂ける。バクリと広げた真っ赤な口の中に、その右手だったモノを放り込んだ。骨を噛み砕く音がして、口の中にそれは消える。
右手の後始末を終えたノアールの顔は、元の美女の顔に戻る。
「成長したらノアールと同じ力を持つ魔物になったのかい?」
「神の加護がないのですから、大した力はないでしょう。それでも、魔物としたら強力な存在かも知れません」
「……そう」
カルロのような下司な奴の手に、この右手が渡らなくて幸いだな。
お屋敷に残っていた魔石は、決して多くはなかった。カルロが逃げ出す際に、それなりの量を持ちだしている可能性がある。
魔法の知識が稚拙な地で、またぞろ「優れた魔法使い」のフリをして悪さをするのだろう。魔石があれば、それなりの「立派な魔法」を実演できてしまうからタチが悪い。
お屋敷は、四分の一程度が地面の陥没に巻き込まれて壊れていた。
改めて、話を聞けば「周囲の森で魔物が増えた」と噂になっていたらしい。それで、護衛役に呪具を持たせるために、更にカルロが重用されることになっていたそうだ。
魔法の知識のない者では、カルロが使う魔石のせいだとは気付けなかったのだろう。
わたしとノアールは、荷物をまとめてナザレの町へ向かうことにする。カルロがそこに逃げているとは思わないが、カルロの工房をそのままにはできない。
子供たちの死体を依代にして、魔物を造っていたこともギルドへ報告しないとならないだろう。
「行方不明になった子供たちは、もう生きてはいないのだろうね」
「子供を、魔物造りに利用するなんて許せません」
珍しく、ノアールの顔に怒りの色が滲む。
人の命には無関心だが、何故かノアールは「子供好き」なのだ。
Ep 狙われたノアール -終-




