【狙われたノアール】第19話 お嬢様との交渉
耳元まで裂けた口で魔石を喰らっているノアールの背中に、お嬢様が引き連れ来た魔法使いが炎の呪具を向ける。
「うおぉぉぉぉぉぉー!」
唐突に、男の声で絶叫が聞こえた。
バァーン!
続いて、爆音と共に青白い閃光がノアールの背後に伸びる。震えで手元が狂ったのか、ノアールの右脚で青白い炎が弾けた。
グラリとノアールの身体が傾く。
生焼けの肉が放つ異臭が地下室に満ちた。ノアールの、焼け爛れた大腿部の肉がドロリとヌメる。醜い火傷の周囲には、炎に焼かれたススがこびり付いている。
片膝をついて倒れ込んだノアールが、ゆっくりと立ち上がる。
呪具を放った魔法使いを振り返るノアールの顔は、口こそ裂けていないものの怒りで残虐な形相となっていた。
剣使いは、剣を抜いてお嬢様の前に立つ。魔法使いは、次の炎の弾を撃つために震えながらも筒先をノアールに向ける。
ノアールは剣使いには目もくれず、呪具を持つ魔法使いの方に歩き出した。焼け爛れた肉は塞がって、もう元通りの白い脚に戻っている。
「仕方ないですね」
ノアールの身体から光の粒が流れ出す。それが右腕に集まって、光輝く右腕になり……それを軽く振ると、光の粒が払われて、元通りに鉤爪の右手が戻っていた。
「おのれ、化け物め!」
再び魔法使いは炎の弾を放つ。しかし、それはノアールに届く前に消えてしまい、刹那の後で魔法使いの右脚を焼いた。
「うぎゃーーーー!」
自分のすぐ前の空間を、魔法使いの背後と繋げていたのだな。意外とノアールは律儀な性格で、やられたことをやり返さないと気が済まない。
右脚を、灼熱に焼かれて歪む魔法使いの顔面を、ノアールの鉤爪が鷲掴みする。そして、熟れた果物が握り潰されるように、真っ赤な血と脳漿を撒き散らして、その身体が崩れ落ちる。
いつの間にかカルロの姿が、地下室から消えていた。
床の石を退けてみると、そこに転移のための魔法陣が描かれていた。お嬢様たちを見捨てて、一人だけで逃げ出したようだ。
「この場の後片付けをしないとならないんだよ。わたし達の邪魔をしないと約束するなら、アンタらには手は出さないようにあの娘に言うけど、どうする?」
腰が抜けたのか、へたり込んだままガタガタと震えているお嬢様との交渉だ。護衛の剣使いは敵意丸出しの視線を向けているが、そっちは無視でいい。
脅えた双眸で、ガクガクと首を縦に振っているので「お屋敷の主の了承」は得られたことにしよう。
この地下室とお屋敷に残る呪具や魔石は、全てノアールの餌として集めることにする。




