【狙われたノアール】第16話 魔石
わたし達とカルロの間にある寝台の上には、何かが横たわっている。蝋燭の灯りに照らされた「それ」に、わたしは見覚えがあった。
それは十二~三歳の子供の死体だったが、左肩から左腕が斬り落とされている。
「まさか……これは!」
ノアールの右腕を抱えて逃げ出した人型の魔物に、わたしは海賊の剣で斬りつけた。そして左腕を切り落としたはずだ。この、子供の死体は同じ傷を負っている。
「子供の死体を依代にして、魔物を造ったのか?」
フードから覗く口元が引きつり、噛みしめた白い歯が見えた。
……笑っているのか?
カルロの背後には、幾つもの大きな机が石壁に沿って並んでいる。その上に様々な器具が並ぶ光景は、まるで祭壇のようだ。その、祭壇の如き机には灰色の石が目立つ場所に置かれていた。
……魔石だ。
トレールの町では、北方の山から魔石と呼ばれる「魔力を封じ込めた石」が採掘されていた。それで、トレールの町は、魔力や呪具の研究に関しては先進的な場所として発展したが、その代わりに魔牛や魔鯰と言った強力な魔物に苦しめられることになる。
魔石で、誰でも簡単に魔法や呪具を使えるようになる。しかし、周囲に『魔』を撒き散らしてしまう性質があって、異様に濃さを増す魔のせいで、魔物が大量に発生したのだ。
だから、トレールの町は、魔石の使用を制限する取り決めをした。それに、もうトレールの町には魔石はない。
なるほど。
カルロが「古い因習や仕来り」と言ったり「斬新な研究はできない」と言った意味はこれか。
「少しはマシな魔法使いかと思ったら、魔石の力がなければ何もできないイカサマ師だったとはね。トレールの町にはいられないはずだ」
「ほう。魔石のことを知っているのか」
ここに来る前に、トレールの町で「本物で一流の魔法使い」と仕事をしたからな。このイカサマ師よりは、魔石に詳しい自信があるぞ。
そして。
その祭壇に見える机の真ん中に、ノアールの右腕が置かれていた。ノアールの右腕を取り囲むように魔石が並べられているのだが、よく見ると鉤爪の指がピクピクと動いている。
「右手が、魔石から魔を吸収しています。急がないとなりません」
左手でわたしの身体を押しのけると、ノアールは右腕の方へ踏み出した。どうやら、ノアールの視界にはカルロの姿は映っていない。
それが、カルロの「自尊心とやら」を逆撫でしたらしい。頭を覆うフードを剥ぎ取って、鬼のような形相になって机の方へ走り出す。
カルロは、ノアールの右腕の前に立ち塞がり、わたしとノアールに向き直った。




