【狙われたノアール】第15話 天空の月
ドタバタとした騒々しい足音がお屋敷の廊下に響いた。逃げた小間使い達の報告を受けて、警備を任せられた戦士が、集まってきたようだ。
「何だって?」
現れたのは褐色のローブを着込んだ魔法使い風の男たちだ。皆、筒状の呪具を持っている。対魔物の警備兵を用意したのか。
「凄いね。どうあっても、ノアールを捕まえたいらしいよ」
「迷惑です」
黒のローブを脱いで裸になったノアールは、両腕を緩く広げた。ノアールの足元から光の粒が湯気のように舞い上がり、わたしとノアールを包み込む。
「右手がないので、ラゲルナ様を抱えられません。しっかり、妾に掴まっていて下さいね」
「ああ」
わたしがノアールの首に両手を回すと、ノアールの左腕がわたしの腰を抱きかかえる。
破裂音が聞こえるのは、呪具で炎の弾を連射しているのだろう。それは全て光の粒の流れで弾かれている。
ノアールの背に、白と黒の翼が具現化した。
「勢いをつけたいので、一度上に飛び上がります」
「……え?」
次の瞬間、わたしの視界が暗くなる。脚に重しがあるかのように重くなって、無理矢理に身体を引きずられる。
……バリッバリッバリッ
……バリッバリッバリッ
耳元で木材や石材が砕ける音が響いて、数瞬の後には、一面の暗さの中に丸い薄明かりが見える。
それを、天空の月だと気付くのに、更に数瞬の間がかかった。
「……」
下に見えているのがお屋敷なのだろう。屋根に大穴が開いている。その大穴から、青白い炎の筋がのびるのは、炎の呪具でノアールを狙っているからか。
しかし、この高さにまでは炎の弾は届かない。ノアールは、あの連中を全く相手にしていない。
「では、行きます!」
「好きにしておくれ!」
光の粒が渦を巻いて、その明るさで視界が完全に閉じられた。
……バリッバリッバリッ
……バリッバリッバリッ
再び耳元に響く破壊音。
……ガラガラガラ
……ガラガラガラ
眩い光の粒が失せると、そこは足元に瓦礫が散らばる石壁で囲まれた部屋だった。埃と、何か据えた臭いがする陰湿で薄暗い部屋だ。
3つの寝台が並んでいて、その向こうに緋色のローブを着た男がいた。
フードで顔を覆っているので、目元は見えないが、口をパクパクさせているのはわかった。
「……な……お……!」
何か言いたいのだろうが、言葉にできないくらいに驚かされたか。
まあ、要件はわかっているだろうから確認する必要はないな。
「選択肢は2つだ。大人しく右手を返すか、痛い思いをしてから返すか。さあ、どっちだい?」
もっとも、それだけで許すつもりは全くない。




