【狙われたノアール】第13話 律儀なメイド
バーン!
部屋の扉を乱暴に開いて、ノアールの右腕を抱える人型の魔物は、廊下に飛び出した。
「ちぃ!」
討ち損じたことを歯噛みしながら、わたしも魔物を追って廊下に出た。ほんの数瞬しか遅れなかったはず……なのに、廊下にはその姿がなかった。
廊下の床には黒い砂が散らばっているが、数歩先のところで途絶えている。床に敷かれた絨毯を剥がすと魔法陣が描かれていた。
この魔法陣で、別の場所へ転移して行ったか。
「何事ですか!」
ヒステリックな声がして振り返ると、例の慇懃無礼なメイドが2人の小間使いを連れてこちらへ駆け寄って来る。
「部屋にいたら、魔物が襲ってきたんだよ」
一瞬だけ、メイドの顔が歪んだ。その後ろに従う小間使いも顔を見合わせて、全身を強張らせたのをわたしは見逃さない。魔物……に、心当たりがあるのだ。
「何を馬鹿なことを仰います。お屋敷の中に魔物が徘徊するなど有り得ません!」
メイドは気を取り直して「魔物が襲ってきた」話を、キッパリと否定した。しかし、命を狙われて穏便に済ませられるほど、わたしは人が出来てはいない。
「カルロの研究室が、この屋敷にあるって言ったね。何処だい?」
「貴女にお教えすることはできません」
おそらく予測していた問いだろう。待ってました、とばかりに背筋を伸ばしシャンとした姿勢を取って、わたしの前に立つ。なかなかご立派な態度だが、メイドの顔を立てる筋合いはない。
「ぎゃあぁぁ!」
海賊の剣の柄でメイドの顔面を張り倒した。それなりに力を込めているから、メイドは床に倒れ込む。
「な、何を……」
ただの人相手なら手加減する……と思って出てきたのだろうが、見え透いた策に乗る必要はない。わたしの本気に気付いたメイドは、血の気を失った顔でガクガクと奥歯を鳴らし始めた。
そして。
ちょうどそのタイミングで、ノアールも部屋から出てきた。おそらく、魔狼と人型の魔物1体を喰らって来たのだろうが、顔は何時になく険しい。
黒いローブの前がはだけて、裸身が晒されている。右腕が肘の上で切断されたので鉤爪こそないが、左脚からは禍々しい蛇の頭がメイドの顔を睨んでいる。
「あの魔法使いは、何処にいますか?」
口元こそ裂けていないが、いつものおっとりとした雰囲気は微塵もない。全身から殺気を迸らせ、双眸は冷徹そのものである。
「ぞ……存じません」
メイドは何とか声を絞り出したが、それがノアールの癇に触れたらしい。左脚から蛇の頭が伸びて、メイドの首に巻き付いた。




