【狙われたノアール】第11話 人型の魔物
抜き身の海賊の剣を握り、自分の背中をノアールの背中に重ねる。
ノアールは無敵だし気配で「何か」を察知できるだろうが、わたしは後ろが見えない普通の人間だ。わたしの後ろは、ノアールの目で見て貰おう。
数刻、そのままの体勢が続いた。
確かに風の流れが違う気がする。窓は閉じられているから、風は外から入ってこない。なのに、部屋の中では微かに風が流れている。
いつの間にか、白い靄が薄く部屋に広がっていた。
「どうやら、お出ましのようですね」
白い靄が濃くなり、それがある方向へ流れ出す。靄は、ノアールの正面で渦を巻いて、人の背丈と同じくらいの塊になった。
わたしはノアールの横に立って、海賊の剣に両手を添える。
白い塊は、二本の足で立ち、二本の腕を広げて人の形になる。輪郭がくっきりとした分、少し背丈が縮んで子供くらいの大きさになった。
「何だろうね、あれは?」
「さあ? わかりません」
まあ……ノアールには何を問うても、概ね「さあ?」なのだが。
カルロが使役する魔物に違いないだろうが、魔狼や魔猪の類いではなさそうだ。
ノアールが黒いローブの前をはだいて両手を広げた。裸身にローブを羽織っているだけだから、乳房や腹部や腰が露わになる。
ノアールは女の身体をしているが、人外の存在である。横に突き出した右手は、猛禽類の如き鉤爪だし、左脚には蛇の頭を持つ4本の触手が巻き付いている。
ローブの中から解き放たれた蛇は、鎌首を擡げて「人型の魔物」に牙を向ける。
人型の魔物は、その両手をかざしたように見えた。すると、その掌部分から光の刃が伸びる。
「あら?」
真っ直ぐに伸びた光の刃は、ノアールの右脚を膝の上あたりで切断した。右脚を失ったノアールは、暢気な声をあげながら尻餅をついてへたり込む。
しかし、既に反撃は始まっていた。ノアールの左脚の蛇も、光の刃を掻い潜って人型の魔物に伸びる。蛇は、床を這い人型の魔物の足下に絡みつき、牙を立てる。
蛇に噛み砕かれた魔物の脚部が黒い砂になって崩れ落ちると、魔物はのた打つように藻掻き始めた。
その間に、ノアールは切断された右脚を拾い上げてくっ付けていた。流れ出た血が右脚にこびり付いてはいるが、ノアールは何事もなかったように立ち上がる。
「とても濃い魔ですね」
蛇を通して、人型の魔物を喰らったノアールが感想を漏らす。
黒い砂になって脚を失った人型の魔物は、残る腰から上が白い靄に戻って再び部屋に広がった。そして、今度は二つの塊がノアールの前に現れる。




