【狙われたノアール】第9話 魔法使いの自信
「生憎とこの娘は、わたしの使い魔ではないし、所有物でもないのでね。わたしの一存で、あんたに譲れるものではないよ」
「ほう?」
カルロは、目を細めて口角を更に吊り上げる。ニタリと笑い、欲望を晒け出して歪んだ顔は、虫唾が走るほどにおぞましく見えた。
「見たところ、隷属の首輪などの呪具で拘束しているわけではないようだ。すると、何かしらの代償を約束して服従させているのか」
ククク……と、声にならない笑いに口元を歪めるカルロ。その背後に、白い靄が渦を巻いている気がした。
『あの客車の中には、呪いが渦巻いていました』
ノアールは、そう言ったっけ。客車の、呪いの渦の源はこの男というわけか。
そして、この男に付き纏う呪いに、魔が集まって来ている。
「どうだろうか。私ならば、君が望むものをもっと簡単に、そして沢山与えられると思うよ。その女戦士の元を離れて、私のところへ来ないか?」
どうやらカルロは、交渉する先をわたしからノアールに変更した……つもりらしい。当のノアールは、自分に問いかけられたことにすら気付いてない。双眸をキョロキョロさせて、部屋の中を見回している。おそらくはカルロの周囲を流れている魔を追いかけているのだろう。
「ふん。まあ、よかろう」
ノアールの沈黙を『拒否』と受け取ったようで、歯噛みの音まで聞こえて来そうなくらいに、カルロの顔が悔しさに歪んでいた。
「この屋敷には、好きなだけ留まってくれていい。気が変わったら、いつでも言ってくれ給え」
「この屋敷の主人は、ルイーゼお嬢様だろう。あんたが勝手に決めていいのかい?」
「ふふん。私の決めたことに反対はできんさ」
悔しさに歪んだ顔が、一気に得意げな笑みに染まった。
そう言えば、やたらと顔の表情がコロコロ変わる魔法使いがいたのを思い出してしまうな。魔法使いをやっていると、感情の起伏が激しくなるのだろうか。
「おっと、別に魔法や薬で言うことを利かせているわけではないよ。私の作る呪具が優秀で、バルドリック商会に大きな利益をもたらしているだけさ。この辺境伯領のみならず、王都へも販路を広げたい時に、私の機嫌を損ねたくはないはずだ」
ああ、結局は自慢話だったか。
「貴女方を、この屋敷に招いたのも私だ。馬車の中で『奇妙な魔力』を感じたのでね。それで、お嬢様を説き伏せたんだよ」
そう言えば、客車で言い争っているのが聞こえたな。
「貴女方が来なければ、私の方で山賊は片づけたがね」
それは事実だな。その程度の実力はありそうだ。




