【狙われたノアール】第8話 魔法使いの望み
カルロが「旅の話を聞きたい」と言ったのは本当らしい。
どんな土地を旅してきたのか? その土地の冒険者がどんな呪具を使い、魔法使いがどんな魔法を使うのかを熱心に訊いてくる。霊木の芯から作り出した「呪符なしで光の矢の撃ち出す魔弓」の話には、カルロも非常に驚いていた。
魔法使いとして、魔法への興味と関心は純朴な印象を受けた。
「やはり、世界は広いのですね。私の知識など、まだまだ狭く浅いものだと痛感します」
見た目なら20代の半ばくらいか。魔法使いとしては、若輩者とされる方だろう。
「私はトレールの町で、魔法使いとしての修行を始めました。トレールの町は、魔法に関しては研究熱心で先進的な町と思われていますが、古い因習や仕来りに縛られた面もあるのですよ。魔法工房同士の同調圧力も強く、斬新な研究はできない風潮があるのです」
「それで、トレールの町を出てナザレの町で工房を開いたのかい」
カルロは、口に含んだワインを飲み込んでから頷いた。
「ナザレの町にも魔法使いはいますが、トレールの町で修行した私にすれば知識や技術は子供レベルでした。トレールの町では禁忌とされる研究でも、ナザレの町でなら止める者はいません。私は、ようやく自由を手に入れたのです」
……禁忌?
「この別荘は、ルイーゼお嬢様のお気に入りなのですよ。この別荘に来ていたお嬢様が、ナザレの町にいる私の噂を聞きつけて、お声がけを頂きました」
「この別荘にも研究室を作って貰ったと言ってたね」
カルロは首肯する代わりに、得意げに口角を吊り上げた。
「私の作る呪具は、出来の良い物と自負があります。バルドリック商会を通して流しておりますが、評判も良く売上にも貢献していると言われています。特に、冒険者の多いヤクトの町では品薄だそうですよ」
自慢話になってから、カルロのワインの減りが早くなった。声も大きくなり、弁舌に勢いが乗ってくる。最初に「私の知識など、まだまだ狭く浅い」と謙虚に語った時とは、雰囲気が全く違っていた。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか」
カルロの視線が、わたしの傍に立つノアールに向いた。ノアールの頭から足下までを舐めるように見回す。
「貴女は大変珍しい使い魔をお持ちです。ぜひ、その使い魔を譲って頂きたいのですよ。なに、決して損な取引はさせません。金であれ、呪具であれ、権力であれ……お望みの通りのものを用意しましょう」
ノアールがどう「珍しい」のか聞いてみたい気持ちもあるが、質問すると面倒な展開になりそうだから止めておこう。




