【狙われたノアール】第6話 湯浴み?
頭を下げている緋色のローブを着た男……これがナザレの町の冒険者が言っていた魔法使いだろう。
「あんたは?」
わたしの問いかけに、緋色のローブを着た男は顔を上げた。
「申し遅れました。私はカルロと申します」
魔法使いは、顔を上げて改めて姿勢を正した。
背の高い赤毛の優男だが、顎を上げて他人の顔を見下す感じが気に障るな。それでいて、言葉使いだけが丁寧だ。
「トレールの町で魔法を生業としておりましたが、旅先のナザレの町で工房を開かせて頂きました。縁あって、今はこのバルドリック商会にお招きを受けまして、この別荘にも研究室を持たせて頂いております」
この別荘に研究室……そう聞いて、嫌な予感が倍増する。この屋敷は、魔法使いの領域と言うわけだ。
「お詫びと申してはなんですが、こちらに客間を御用意させて頂きます。旅の疲れが取れるまで、どうぞ、このお屋敷でお寛ぎ下さい」
それから魔法使いは、チラリとルイーゼ嬢の方を見た。
「ええ、そうして下さいね。遠慮はいりませんよ」
魔法使いの言葉を引き継ぐように、張り付いた笑顔のルイーゼ嬢が頷く。
どうやら「わたしとノアールをお屋敷に留めておきたい」のは、カルロと名乗った魔法使いらしいな。お嬢様は、その要請を追認しているだけらしい。
脇にいるノアールは、お嬢様のことは眼中にないようでカルロだけを凝視している。カルロの方は、ノアールの視線に気付いていながら知らぬフリをしている感じだ。
わたしとノアールには、それぞれ別の部屋が用意されていた。しかし、それは断って2人で同じ部屋を使うことにする。
例の、慇懃無礼なメイドには「寝台が1つしかない」からと注意されたが、無視して勝手に1つの部屋に押し入った。
しばらくして、大きな盥とぬるま湯の入った水甕が部屋に運ばれてきた。湯浴みの仕度をしてくれたことには感謝しよう。
盥にぬるま湯を張って、裸の身体を湯につける。頭から湯をかぶり、髪でジャリジャリと固まっていた泥を洗い流した。
「ノアールも身体を洗っておきなよ」
ノアールは盥の湯に左手を入れたが、湯の温かさに驚いたのかサッと手を引っ込めてしまう。そして「妾は、いいです」と震えるような声で拒否した。
ああ、そうか。お湯で身体を洗う『湯浴み』を知らないのか。
普段は川や泉で、身体を洗っているだけだからな。お湯に身体を沈めるのは、抵抗があるかも知れない。
旅の途中で温泉が湧き出ているところがあったら、連れて行ってやろう。




