【狙われたノアール】第5話 緋色のローブの男
田舎の街道は森を抜けるところまで一本道だった。森を抜けると、北の方向に屋敷が見えたから、あれがバルドリック商会の別荘なのだろう。森を出て街道は分岐しているが、あれを目指せばいい。
「いや、別荘のために道をわざわざ造らせたって感じだね」
先ほどのメイドや御者の、他人を見下す態度が思い出される。お嬢様とやらも、金持ちで高慢ちきな女を想像してしまう。
(以前仕えていたレイドリク伯のお嬢様は、優しい方だったのにな)
わたしはレイドリク伯のお屋敷で令嬢の護衛役をやっていた。一頻り旅をしたら、お嬢様の元へ帰る約束をしていたんだっけ。その時にはノアールも連れていけたらいいと思う。
(お嬢様の性格なら、ノアールもきっと好きになるだろうな)
物思いに耽っていると、ノアールは別荘と空を交互に見やっていた。
「あのお屋敷から、魔が外へ流れ出しています」
「流れ出す?」
魔が「呪い」に引き寄せられるのなら、お屋敷の方へ流れていくはずだ。それが逆に流れ出しているのなら、お屋敷の中で「魔を撒き散らす」ような大がかりな魔法を行われているのだろうか。
相当ヤバいことに首を突っ込んでしまったのかも知れない。
わたしの泥水に汚れた革鎧を見た門番から、最初は追い返えされそうになる。しかし、事の次第を話すとあっさりと中に通された。
扉の外で、あのメイドが待っていて、2階の奥の応接間に案内してくれる。
屋敷の配置から、これは大切な来客を案内する応接間だ。先ほどの対応からの、掌の返し具合が怪しさを倍増させるな。
応接間に現れたのは、着飾った若い女と緋色のローブを着た男だった。
「ルイーゼ・バルドリックと申します。先ほどは、危ないところをお助け頂きありがとうございました」
儀礼的なお辞儀の後で上げた顔は、なかなかの美人だが冷たい印象がある。年の頃は22か23くらいか。
「助けたのは単なる成り行きで、わたしは馬車に泥水をかけられたことを抗議しに行っただけだなんだけどね」
「泥水……ですか?」
ルイーゼお嬢様は、怪訝な顔でわたしを見る。わたしはメイドに「泥水の謝罪」と言ったはずだが、それは伝わっていないらしい。
では、何故ここに案内されたのだ?
「大変失礼しました」
横に立っていた緋色のローブを着た男が、会話に割って入ってきた。
「私が急ぎの用があるからと、御者を急かしたのです。そのせいで、御者が少なからず乱暴に馬車を走らせてしまったのでしょう。大変、申し訳なく思います。お許し下さいませ」
緋色のローブを着た男は、深く頭を下げて見せる。




