【狙われたノアール】第3話 相棒の役目
6頭立ての馬車が走り去った後、ノアールはずっとその方向を眺めている。
「何か気になるのかい?」
「あの客車の中には、呪いが渦巻いていました」
ノアールの口角が上がり、小さく突き出した舌先が上唇を舐めた。呪いとは、人の無念や怨嗟などの……負の感情だ。そこには魔が集まりやすい。
ノアールは、魔を喰らう存在である。魔を喰らうノアールにとって呪いが渦巻く場所なら、格好の餌場だ。
わたしとしては、一言「泥水をかけて、申し訳ありませんでした」と言ってくれたら、それで終わりなのだが。
お屋敷とやらは、この森を抜けた先にあると言っていたな。わたしとノアールは、馬車の向かった方向に歩き出す。
「おい!」
歩き出そうとしたところで、背後から声をかけられた。声をかけてきたのは、先ほどの山賊のリーダーだ。引き上げると言いながら、実はずっと森の中に潜んでいたのだ。
わたしが馬車に乗らなかった理由の一つは、連中の気配があったからだ。
「あんたも、バルドリック商会の人間なのか?」
「バルドリック商会?」
手広くやっている商人として、王都でも名前は聞いたな。そう言えば、バルドリック商会の本拠地はこのフェアトレー辺境伯領にあるのだっけ?
「この先にあるのは、バルドリック商会の別荘だ。ルイーゼお嬢様お気に入りのな」
「ルイーゼお嬢様?」
わたしには、山賊のリーダーが言わんとすることが判らない。困惑しているわたしを見て、山賊のリーダーが小さくため息を漏らして頷いた。
「そうか……やはり、何も知らないのか」
知らないのは、その通りだが……正しく言うなら「興味がない」だな。
「正直に言おう。山賊のフリをしてるが、俺はナザレの町の冒険者で、ログールと言う者だ。他の連中も、みんなナザレの町の冒険者仲間だ」
冒険者崩れが「山賊に成り下がった」と言うわけではないと言うことか?
「ナザレの町で物騒なことが続いていてな。それが、あのお嬢様に取り入った魔法使いと関係してるんじゃないかって憶測があるのさ」
「魔法使い?」
ノアールは「呪いが渦巻いてい」ると言った。
呪具や呪詛を操る魔法使いが『呪い』と関わるのは当たり前のことだが……ノアールが舌舐めずりする程のモノとなれば尋常ではない。
「まともな魔法使いではないってことかい」
ナザレの町の冒険者は頷く。
別荘とやらに招かれたのも、何かの思惑があってのことに思えてきた。もしかしたら……また、死にそうになる事件に巻き込まれたか?
まあ、仕方がない。
ノアールに餌を与えるのも、相棒としての役目である。




