【狙われたノアール】第2話 客車の中で
海賊の剣を肩に担いで近づくと、馬車の御者と思わしき者が蹲っていた。剣で斬り付けられたらしいが、傷は浅そうだ。おそらく馬車から突き落とされた打撲で動けないのだろう。
強引に馬車の御者席に乗り込んで、剣で斬り付けたか? それなら、飛び道具を使う仲間はいなさそうだな。
「何だ、貴様は?」
一際、身体のデカい奴が怪訝そうな顔を、わたしに向けた。こいつがリーダーなのだろう、一番強そうだ。
「アンタらの選択肢は2つ。このまま引き上げるか、痛い思いしてから引き上げるか。好きな方を選びな」
「何だと?」
ロングソードを握り直して、わたしを正面に置くように大男は向き直った。このまま、手下に「やっちまえ」と命ずるのを想像したが……違った。
わたしを見据えた後、あっさりと「引き上げるぞ」と言って手下を連れて去ってしまう。このまま引き上げるか……と確かに示したが、本当に引き上げられてしまって、わたしの方が拍子抜けだ。
何とか立ち上がった御者が、わたしの方へ歩いてくる。そして、客車の入口からメイド風の女が出てきた。
「ありがとうございました。些少ですが、これをお受け取り下さい」
メイドは丁寧だがツンとした態度でお辞儀をし、何かを包んだ布を差し出す。おそらくコインだと思う。しかし、わたしの用件は『そっち』ではない。
「さっき、この馬車が跳ねた水たまりの泥水を浴びせられたんだ。それを謝罪して欲しいんだけどね」
御者は、わたしの身なりを一瞥すると、フンと鼻を鳴らして後ろを素通りして馬車の御者席に戻った。御者の態度も腹立たしいが、慇懃無礼なメイドも癪に障る。
「主人が出てきて、詫びるのが『人の礼儀』じゃないのかい?」
「生憎とお嬢様は、下賤な者とは関わりません」
いきなり下賤と来たか?
まあ、今の身なりは汚いだろうさ。この馬車に泥水を浴びせられたのだからな。
「ラゲルナ様」
傍に来たノアールが、妙に怪訝な表情でメイドの後ろを見ている。客車の中に、何か気になるものがあるらしい。
すると、客車の中からも何やら強い口調で言葉が飛び交うのが漏れ聞こえてきた。聞こえるのは男の声と女の声だ。男の声が、女の声を諭すように訴えている感じだ。
メイドが客車の中に呼び戻され、少し間を置いてからまた現れた。
「お嬢様が、助けて頂いたお礼をしたいと申されました。お屋敷に案内いたしますので、どうぞ中へ」
客車の中に呼ばれたが、それは断ることにする。お屋敷とやらの場所だけを聞いて「後から歩いて行く」と伝えた。




