【狙われたノアール】第1話 豪華な馬車
街道を歩いているわたしとノアールの脇を、6頭立て馬車が追い抜いて行った。
前日の雨のせいで、道には所々に水たまりができている。馬車の車輪が水たまりの泥水を弾いて、わたしの顔にかかった。
「ぺっ! なんだい、あれは?」
大きな街道ではないし、整備されているわけでもない。あんなに馬鹿でかい馬車が通るには、かなり不釣り合いと言っていい。
ノアールがズタ袋を下ろして、中から浴布を取り出してくれた。
「大丈夫ですか? ラゲルナ様」
「ああ、ありがとう」
取り敢えず、泥水は口には入らなかったのが幸いだな。
わたしの名前がラゲルナで、相棒のことはノアールと呼んでいる。
わたしとノアールは、女2人で旅をしている。まあ……わたしは間違いなく女であるがノアールの方は「取り敢えず、女」と言っておくべきか。そもそも人間ではない、人外の存在であるのだから。
それでも見た目は黒髪の美女だ。素直で従順な性格をしているし、気遣いもできる。その上力持ちで、重い荷物は全部持ってくれる。
わたしに取っては良き相棒だし、旅の道連れだ。
浴布で顔にかかった泥水を拭って、わたしは歩き始める。ノアールも、荷物を詰め込んだズタ袋を担いでついて来る。
少し歩くと、木々が茂る森に入った。真っ直ぐな道の先に、先ほどわたしに泥水を浴びせた馬車が見えた。
「あの馬車、止まっているね」
よく見ると、馬車を数人が取り囲んでいた。更に、その連中は剣を持っている。
判りやすい構図だ。田舎の街道を走る豪華な馬車を、剣を持った人相の悪い連中が取り囲んでいる……山賊が獲物を襲っているところだろう。
「それが何か?」
相棒のノアールは、わたし以外の人には関心がない。山賊が何をしようと、襲われている馬車がどうなっても気にしない。正直なところ、わたしも面倒事には関わりたくないから「見なかったこと」にしたい。
しかし、進んでいる通り道の先が事件の現場なのだ。
「馬車に乗っている誰かに、泥水をぶっかけられた件を抗議しておきたいからね。仕方ないから、山賊を追い払うよ」
「わかりました。ラゲルナ様に謝罪ができない者たちなら、妾が許しません」
ノアールは、山賊より馬車の方に敵意を持ってしまったか。
まあ、いいさ。一応、わたしは腕に覚えのある女戦士だ。山賊くらいなら、1人で追い払えるだろう。
「弓や呪具の飛び道具を使う者が隠れていたら、何とかしておくれ」
それだけノアールに言い含めると、わたしは使い慣れた海賊の剣を腰の鞘から引き抜いた。




