【最強の戦士】第19話 仕事終わりに
魔蝙蝠は最後の魔力を振り絞ったのか、ノロノロながらも更に高く上昇する。その両足を掴んでいるノアールごと、だ。
「あれ! 大丈夫なの?」
空高くに連れ去られるノアールを心配したのか、耳元でエロイーズの金切り声が響いた。この甲高い声には、頭がクラクラしてくる。
「大丈夫だよ」
飛べるのだから、空に上がる分には平気だろう。その気になれば、一瞬で雲の上まで飛翔するし、分厚い石壁もぶち抜ける。
森の木々の高さを越える前に、魔蝙蝠は力尽きたようだ。ノアールの蛇に囓られた頭は、完全に黒い砂になって崩れ去る。藻掻くように羽ばたいていた左右の翼の動きが止まった。そして、落下する。
「ええ?」
数瞬の後……重く鈍い音を立ててノアールと魔蝙蝠は、地面に激突した。黒い砂が巻き上がったのは、消滅する魔蝙蝠の身体からだろう。
駆け寄ってみると……浅く陥没した地面の穴の中で、ノアールは、耳元まで裂けた口を広げて魔蝙蝠の翼を喰らっていた。
よく見ると、右足があらぬ方向に曲がっていたが……まあ、大丈夫だろう。
(エロイーズには見せない方がいいよな)
直感的にそう思ったのだが、既にエロイーズはわたしの後ろで双眸を見開いていた。顔は強張って、握った両手を口元に当てて身体ごと小刻みに震えている。
魔蝙蝠を喰らい尽くすと、ノアールは立ち上がった。裂けた口は元の美しい顔に戻り、先ほど曲がって見えた右足も真っ直ぐになっている。
エロイーズが、後ろからわたしのサーコートを引っ張った。
「ねえ。あの娘の右足……折れてなかった?」
「ああ。気のせいだろう」
治ったとか言うと問い質されて面倒だから、気のせいにしよう。
「顔……口が裂けてなかった?」
「大食らいだからね。そう見えたかい?」
見えただけ……美人に対する嫉妬心で、歪んで見えることもあるさ。
「魔物を食べてたのよ!!」
「焼き菓子より好みなんだよ」
いちいち、うるさい女だな。他人が何を好んで食べようが個人の自由ではないか!
「貴女こそ、何で炎の弾に当たらないのよ!」
「普段の行いがいいからだよ」
だから土妖精から贈り物を貰えた……と言うことでいい。
ノアールに喰われて魔蝙蝠は消滅した。
仕事は終わった。
わたし達も元魔法工房だった小屋に戻ることにする。すると、小屋にはヤクトの剣の2人の冒険者がいた。エロイーズを1人で送り出したのが心配で、追いかけて来たようだ。
冒険者3人なら、帰り道で魔狼が出ても十分対応できるな。
「魔蝙蝠退治の報告をギルドに頼むよ」
わたしとノアールは、このまま旅に戻ることにする。




