【最強の戦士】第13話 少女の夢?
ノアールの口をこじ開けて、焼き菓子を放り込もうとしたエロイーズ。しかし、ノアールの怪力に抑えられ、ようやく諦めて大人しくなる。
とは言え、ゼイゼイと息を荒らげてノアールを睨んでいた。ノアールに「外の見張りをお願い」と言って、取り敢えず小屋の外へ出て貰った。
これでエロイーズも少しは静かになるか……と思ったら、今度はわたしに絡んできた。
「ラウルは重傷よ。もしかしたら冒険者を引退するかも知れない」
かも知れない……なら、まだ甘かったな。本気で「二度と戦えない」ようにしてやるつもりだった。
「ラウルは短気なところはあるけど、本当は優しい人なの。今回の件だって、素人が魔蝙蝠と戦って怪我をしないように警告しようとしたからなのよ」
ノアールは、森を彷徨っている間に喰らった経験があるかも知れないが、わたしは魔蝙蝠に関しては素人だな。空を飛ぶ魔物……以外には何も知らない。
それだけの理由で、力自慢の大男に不意打ちをされるのは理不尽ではないか。最初にラウルがわたしの脇腹を突いた拳は、寸止めではなく本気の一撃だった。
もし、わたしが油断していたら……わたしの剣が海賊の剣でなければ……拳撃に吹っ飛んで怪我をしていたかも知れない。
「だからね。ラウルのことを悪く思わないで欲しいの」
わたしの返事を待つつもりなのか、エロイーズは言葉を一旦切った。その大きな眸で、わたしを見ている。
『強い奴とやり合うのはゾクゾクするほど面白れえもんだ』
あの時、ラウルはそう言った。戦いを面白がる……それは、わたしが一番嫌いな下司野郎だ。
「ラウルには、歳の離れた妹がいるのよ。まだ小さくてすごく可愛いのだけど病弱なの。その妹さんがね、ラウルのことをとても自慢にしているの。『お兄ちゃんは、すごく強いんだ』って」
何の話だ?
「貴女がラウルに勝ったことを黙っていて欲しいのよ。ラウルは、魔蝙蝠との戦いで怪我をした……とか、仲間を庇って怪我をした……ってことにしてくれないかしら。可愛い妹さんの夢を壊したくないの」
馬鹿馬鹿しい。これ以上、この連中の話は聞きたくない。
「あんたはここで寝ていいよ。わたしは、あの娘と外で寝る。もし、勝手にわたし達の傍に近寄ったら……命はないと思っておきな」
暖炉の灯りに照られたエロイーズの顔が、大きな眸を更に見開き口をパクパクさせていた。何か言いたそうだが、聞く気はない。
そのエロイーズを中に残して、わたしは小屋を出た。




