【最強の戦士】第12話 エロイーズ
生きて帰った者がいるなら、ここから『お宝』は見つかったのだろうか?
「この元魔法工房からは、何か見つかったのかい?」
「それらしい話は聞いてないわ」
そう言えば、強い魔力に食欲を示すノアールが、元魔法工房を気に留めていない。この中には、ノアールの食欲を刺激するモノは何もないってことか。
少し間を置いて、ノアールが元工房に入ってきた。
「今のところ、魔の流れは感じません」
ノアールは、少し残念そうな顔でそう報告した。
取り敢えず1泊して、魔蝙蝠退治の行動は翌朝からにする。小屋の中は半分は工房、残る半分は居住する場になっている。雨水を濾過して飲料水にする仕掛けは壊れていないので水の心配はしなくて良さそうだ。
夕食の用意を始めたら、エロイーズがやたらとノアールに絡もうとする。
特にノアールの羽織る黒のローブには、相当に高度な呪詛が刻まれているらしく、ノアールの師匠の名前を知りたがっている。このローブが「闇落ちした魔法使いの死体」から剥ぎ取ったものらしいのは黙っておこう。
「あなたの得意分野は何?」
「美人で力持ちだよ」
「あなた、どこの生まれなの?」
「ここより北の地方らしいよ」
「どこで魔法を習得したの?」
「どこかの森の中らしいね」
ノアールは、わたし以外の人間には興味を示さない。当然ながら、エロイーズにも関心がないから、何を問われても返事をしない。代わりに返事をしたのは、わたしだ。
更に。
「何で、あたしの作った料理を食べないのよ!」
エロイーズは香辛料を利かせたスープを作っていた。それは非常に高級なものだったが、ノアールは口にしない。それに小麦粉に果実を乾燥させてものを混ぜて、砂糖で甘くした焼き菓子も振る舞っている。
(この焼き菓子は、かなり貴重なものだろうな)
普通ならば料理人を抱える金持ちの厨房でしか作られない。これを作れるエロイーズの料理の腕は相当高いのだろう。
しかし、魔を喰らうノアールは、人の食べ物は必要としない。仮に口に入れても、味覚がないから「美味しさ」はわからない。特に、今は魔蝙蝠に涎を垂らしているから、人の食べ物には見向きもしない。
「妾はラゲルナ様と魔蝙蝠退治をするのです。貴女は関係ありません」
しつこく詰め寄るエロイーズを、ノアールが突き放す。わたし以外の人に声を出すのも実は珍しい。相当にウザく感じているのだろう。
「いいから、一口でも食べてみなさいよ!」
そう言って焼き菓子をノアールの前に差し出すエロイーズ。
あ……そちらの問題だったのか?




