【水魔】第2話 野宿
日は南中から西に傾き始めたから、そろそろ昼時である。ノアールに届けて貰った腸詰め肉を炙ることにした。
握り拳が入るくらいの穴を地面に真っ直ぐに掘って、その穴の左右から穴底でぶつかるように斜めに小さめの穴を掘る。火種と細い小枝を入れるだけで、かなりの火力になる。
北の地でなら、積もった雪に同じように穴を掘って火を熾していた。少ない手間と燃料で、豆を煮込むとか、腸詰め肉を炙るのには十分な火が得られる。
腸詰め肉が香ばしく焼けた頃。
「なんだ、大丈夫そうじゃねえか」
大柄な剣使いと、まだ少年の面影が残る魔法使いがやって来た。剣使いはランスと言い、魔法使いはロベルトと言う名の冒険者だ。
「食料と火を熾す魔法を封じた呪符を持ってきました。火打ち石で、火を熾すよりずっと楽ですよ」
彼らとはトレールの町で知り合った。トレールの町は呪具の製造で有名で、呪具を扱う商人たちが買い付けに来る。そう言う商人や旅人が、魔物に襲われないように保護するのも冒険者の仕事であり、彼らは街道の近くで魔物狩りをしている。
「わたしは魔法使いじゃないから呪符の使い方を知らないよ。相棒も火を扱うことはできないしね」
黒パンは有り難く頂くが、呪符は遠慮しようとした。
ノアールのことは、表向き「女魔法使い」と言うことにしている。実際、ノアールの力は、魔法とは別物なのだが。
「大丈夫です。簡単に仕えるように呪詛を刻んであります。火を付ける薪で、呪符を壊せば発火するようにしてきました」
ロベルトは、掌より小さく薄い木片を地面に置いて、それを木の枝で割って見せた。割れた木片から火が出て、数瞬の間に木の枝に燃え移った。
「へえ、本当に火打ち石より楽だね」
「何枚か置いて行きます。狼煙にも使えますから、魔鯰が出たら知らせて下さい。直ぐに加勢に来ますから」
トレールの町へ行くなら、船で湖を横切ればずっと楽になると言う。それが魔鯰のせいで湖上を横切れずに、陸の街道で遠回りするか、船でも陸沿いの浅瀬を小型船で移動するしかできないとのこと。
本当に「魔鯰を退治できるのなら協力は惜しまない」と言ってくれている。
ロベルトとランスが立ち去ってから、わたしは湖を眺める。
浅瀬が安全……と言うことは、浅瀬に近づけないくらいに巨大な魔物ってことだ。
陸沿いの水面は緑がかった青色。湖の中央部は深い蒼色をしている。そして、わたしがいる湖畔の目の前は深い蒼色だ。この場所は、水に入ってすぐに水深が深くなるので「魔鯰が近づきやすい」ところ……らしい。




