【最強の戦士】第9話 魔蝙蝠
この町の冒険者ギルドは、教会の一部を借りている。受付になっているのは備蓄庫だ。少し前に廃村寸前までになったフェルトの町には大した収穫もないから教会の備蓄庫も空だったわけである。
そこから、礼拝堂に案内された。小さな礼拝堂には3人の男たちが待っていて、それは町長と教会の神官、そしてヤクトの剣のリーダーであるブローガルだった。
町の顔役クラスが揃った中で、ブローガルが片足を引き摺りながら前に出た。
「俺が事情を説明する」
受付の女職員が椅子をブローガルに持って来た。ブローガルは「申し訳ないが、椅子に座らせてくれ」とわたしに頭を下げた。わたしが負わせた傷だから仕方ないか。
「森に魔蝙蝠がいる」
ブローガルの口にした名称は、空を飛ぶ魔物で、陸の魔狼や魔牛とは別の面倒さがある。町長と神官、それにギルド長は頷いた。
わたしの隣では、ノアールが《《舌舐めずり》》をして身を乗り出す。
「町長によれば、魔蝙蝠に襲われたと思われる事件は少し前からあったそうだ。目撃した者の話もな。だが、当面は群れで人を襲う魔狼が問題だった」
魔狼の群れのリーダーを討伐できたから、次は魔蝙蝠と言うわけか。
「町長からは、魔狼狩りと共に魔蝙蝠狩りもヤクトの剣に依頼されていた仕事だ。魔狼狩りが一区切りしたので、我々は魔蝙蝠狩りに専念するつもりだった。そこへギルド長から、ラゲルナ殿を推薦されたのだ」
ギルド長が頷いた。
「ラゲルナ殿は、トレールの町で魔鯰と言う強力な魔物退治をしたと言う。それなら魔蝙蝠退治にも貴重な戦力になるのではないか、とギルド長は仰った」
ノアールが喰らいたいと言い出したからな。水の魔物だったから、泳げないわたしには辛い仕事だった。喰らいたいと言い出したノアールも、実は泳げなかったから溺れたし。
「しかし、俺も含めてヤクトの剣のメンバーは、ラゲルナ殿を知らないし、魔鯰と言う魔物も知らない。弱小なギルドで噂に尾ひれが付いただけではないか……と疑う者もいた。それで、ラゲルナ殿の実力を試すことになったのだ」
町長が視線を泳がせている。わたし達の実力を疑ったのはヤクトの剣のメンバー《《だけ》》ではなさそうだな。
「ラゲルナ殿と女魔法使いのノアール殿の実力は、本物だ。ヤクトの剣のリーダーとして、保証する」
ブローガルは話を区切ると、町長へ視線を移した。町長は一歩前に出て、咳払いをする。
「ラゲルナさん、魔蝙蝠退治を引き受けて貰えないか?」
わたしはこの町では、もう仕事をしたくない……なのに。
隣で、舌舐めずりをしている《《奴》》がいるのだ。




