【最強の戦士】第5話 海賊戦士の戦い
ラウルと言う大柄な戦士は、両手を拳に握って腰を軽く沈めた。わたしの怒気を面白がるように、口角を上げている。
「ラゲルナ様、妾が……」
わたしの前に出ようとしたノアールを、左手を伸ばして制する。わたしの手で痛めつけないと気が済まない気分だった。
「こいつは、わたしが相手をするよ。ノアールもおもてなしを用意しておきな」
おもてなしは、わたしとノアールの間で定めた暗号である。
「はい」
暗号を理解したノアールは、素直にわたしの後ろに退く。その様子を見ていたラウルは、両の拳は胸の高さに上げた。緩く曲げた肘が、筋肉の弾機を溜めている。
「やる気になってくれたかい。嬉しいねえ」
剣使いと紹介されたが、筋肉の付き方から「剣も使える」格闘家が正しいだろう。
わたしは右手の海賊の剣を地面に突き立てて、右手を空にする。
「好きな得物を使っていいんだぜ」
素手で正面に立つわたしを見て、ラウルは余裕の笑みを浮かべて言う。
風が停まったことには気づいていない。
「ああ。必要になったら使うさ」
「すぐに必要になるぜ」
ラウルが顎を引き、その左の拳が伸びてくる。構わず、わたしは一歩踏み込んだ。
……バシッ
ラウルの左拳が、わたしの右頬に当たった。しかし、一歩踏み込んだおかげで勢いが乗る前の拳戟で、大したダメージではない。右頬で止まったラウルの左手を、わたしの左手で掴む。
わたしは腰を捻り、上半身の弾機を効かせて右の拳をラウルの喉元へ叩き込んだ。
「……ぅぐう!」
喉元を圧迫され、息を詰まらせたラウルは腰を退いて前屈みになる。わたしはラウルの左腕を離して一歩下がって腰を沈める。ラウルが顔を上げたところで、その顔面に蹴りを入れた。
ラウルの身体は大きく仰け反って背中から倒れ込んだ。
「それまで!」
ブローガルの声がかかった。しかし、わたしには関係ない。
ブローガルはゆっくりと近づいて来て、右手を差し出した。
「合格だ。いや、想像以上の強さに驚かされたよ」
わたしも右手を差し出す。
だが……わたしの右手は、ブローガルの右手を素通りした。ブローガルが腰に吊した剣の柄を握り、引き抜く。
「!」
ブローガルから奪ったロングソードで、ブローガルの右脚を斬り付ける。
「……ぐぁ!」
深手ではないが、足止め程度の傷は負わせた。
「何、しやがる!!」
上半身を起こしたラウルの怒声。
振り返ったわたしは、ロングソードをラウルの右の大腿部に突き立てる。大腿部からドス黒い血が吹き出し、ラウルは呻き声を上げた。
「ぐぉおおお!」
北の海賊戦士が戦えば、生か死以外に決着はない。




