【最強の戦士】第4話 ヤクトの剣
人の礼儀……を持ち出されて、剣使いの顔に一瞬不快の色が浮かぶ。
「これは失礼したな。俺は『ヤクトの剣』のリーダーをしているブローガルと言う。見ての通りの剣使いだ」
ブローガルと名乗った剣使いには、立ち居振る舞いに一切の隙がない。かなりの腕だろう。試合なら3回のうち2回は、わたしが負ける……そう直感した。
「後ろにいる剣使いはラウル、それと魔法使いのエロイーズ。エロイーズは女ながら優秀な魔法使いだ」
紹介を受けてエロイーズは小さく頭を下げるが、ラウルの方は胸を反らせて片目を瞑って笑っただけである。ブローガルによると、あと2人仲間がいて、戦いの場に出ない裏方役も数人いるそうだ。
「気に掛けてくれたのなら有り難いけどね。旅の途中で旅費稼ぎに冒険者をやってるだけだから、あんたらのメンバーに加わるような資格はないよ」
先の展開が予想できてしまったので「腕を試させろ」と言われる前に断ることにする。わたしの返事にブローガルは意外そうな顔をするが、ラウルはニタリと笑って前に出てきた。
「おいおい、腕試しもせずに辞退しちまうのか。まさか俺らを見ただけで、怖じ気づいちまったのかい?」
挑発したつもりか?
別に「怖じ気づいた」と思うなら、それでいい。旅を続ける余所者のわたし達には、その土地でどんな評価をされようと関係ない。
話は終わった。
井戸から汲み上げた水で浴布を濡らすと、ノアールを連れて洗濯場から立ち去ろうとした。
3人の脇を通り過ぎようとしたとき、ラウルの右拳がわたしの脇腹へ振るわれる。海賊の剣を引き抜き、その右拳を叩いて止めた。
「ほう、やるじゃねえか。面白れえや」
いや。わたしの海賊の剣の方が、ラウルの手甲に受け止められたと言うべきか。ラウルの方も腕は立ちそうだ。
だが、わたしには聞き逃せない言葉があった。
「面白い……とは、どう言う意味だい?」
わたしの、ラウルに向けた眸には殺気が籠もっていただろう。一瞬だけ、ラウルの表情が強ばり、そしてまた口角を上げてニヤリと笑った。
「あんたが強そうだからさ。強い奴とやり合うのはゾクゾクするほど面白れえもんだ。冒険者ならわかるだろう?」
「わからないね」
ラウルと言う男はゾクゾクするらしいが、わたしの方は沸々と怒りが込み上げてくる。
戦いの場にいると、人の道を踏み外す輩がいる。仲間を失うことに無関心になったり、人を殺すことを楽しむようになったり……。
そんな輩は、決まって戦いを面白がる。わたしは、そんな輩が大嫌いだ。




